佐伯浩北大前総長が北海道教育界の未来を語る
アカデミーフォーラム懇談会で
北海道開拓期の札幌農学校を前身にもつ北海道大学。北の最高学府としてその存在価値を示しているが、政府の緊縮財政によって教育研究予算が減額されるなど年々厳しい状況にある。そうした中で「北海道大学における研究の現状と成果の活用」をテーマに前北海道大学総長の佐伯浩氏がこのほど、アカデミーフォーラム懇談会(代表、谷口博北大名誉教授)で講演した。(札幌支局・湯朝 肇)
グローバルな人材育成急務
地域への貢献でも課題多い
「バブル崩壊から今日まで失われた20年で経済界に人材を育てる余裕がない。その分、大学に即戦力となる人材を求めてくるようになった。日本の大学が世界で競争に打ち勝つには何よりもグローバルな感覚や視点が求められる」
6月27日、札幌市内で開かれたアカデミーフォーラム懇談会で佐伯氏は、大学界に求められる人材像についてこう語った。同氏は平成19年度から26年度までの8年間、北海道大学の第17代総長を務めた。この間、北大はグローバルな大学として国際的評価を高めている。
その一つが、22年の鈴木章・北大名誉教授のノーベル化学賞の受賞であった。この点について、佐伯氏は「私の在任中で最も喜びの出来事であり興奮したのを覚えている。当大学に関わる全ての人にとって誇りとなった」と述べている。
そして、もう一つの出来事が20年に開催された洞爺湖サミット(主要国首脳会議)であった。主要国の首脳が道南の景勝地・洞爺湖で地球環境を大きなテーマとしてサミットを開催した。
北大はサミット開催に先駆けて前年から「持続可能な開発」の実現に資する研究と教育を加速させ、国際貢献に寄与することを目的とした「サステナビリティ・ウイーク」と名付けたプロジェクトをスタートさせた。
具体的には一カ月以上に及ぶ期間を当てて、「持続可能な社会づくり」に向けた研究・教育の強化を目的に、市民をも巻き込む公開講座や20以上の国際シンポジウムを実施した。
この時はG8諸国と他の主要国の大学など35大学の学長ら140人による「G8大学サミット」が開かれた。同プロジェクトは現在も規模を拡大して毎年続けられている。
アカデミーフォーラム懇談会で佐伯氏は「単に良いものをつくって海外に提供していく時代は終わった。自分たちは良いものと思っても海外で受け入れられなければ意味がない。そういう意味で良いものづくりとともに世界標準をつくっていかなければ生き残ることはできない」と説く。大学におけるグローバルな人材育成は急務だという。
折しも、国立大学は16年4月から国立大学法人に移行した。文部科学省は、より個性豊かな魅力のある大学になるため自由度を広げて、国の組織から独立した国立大学法人にしたとしている。
だが、実際は国の財政支出を減らすための措置とも言われている。事実、国立大学法人に対する国からの運営交付金は毎年減少している。そうした状況の中で現在、文科省は国立大学を三つに分類。
すなわち、①世界最高の教育研究の展開拠点(スーパーグローバル大学、10校程度)②全国的な教育研究拠点(30校程度)③地域活性化の中核的拠点(40校程度)に分ける。とりわけスーパーグローバル大学に対しては、持続的な競争力を持ち、高い付加価値を生み出す大学を目指すように位置づけ、そうした大学に対しては予算も重点配備していく方針を打ち出している。
従って、今後の北大の在り方について佐伯氏は「北海道大学がグローバルな大学であると同時に地域にも貢献するためには課題はたくさんある」と語りながら、スーパーグローバル大学となるための戦略としては①外国語能力の強化を含めた国際標準の教育システム②留学生の増加策の強化③国際的な論文の提出強化④海外の大学との積極的な研究協力の実施――などを挙げた。
この日の懇談会には北大の学生や企業、教育関係者など30人余りが参加。会場からは若手研究者のモチベーションを高め方など活発な質問や意見が出て自由な討論の場となった。
今年で設立10年、24回目となる同懇談会。事務局は「北海道を元気にするために各界から識者を招いてフォーラムを開催していきたい」としている。