通信アプリの利用時間が長いほど成績低下
仙台市教育委員会と東北大学が中学生を対象に調査
未成年者のスマートフォン(スマホ)所有が急増する中、仙台市教育委員会は東北大学と連携し、市内の中学生(1~3年生)2万2439人(スマホ所有者1万4282人)を対象に調査を行った。その結果、LINEなど無料通信アプリを長時間使用すると、いくら勉強していても成績が下がるという衝撃的な結果を明らかにした。これを受け、市では今年度から授業などでスマホ・携帯の使用に関する取り組みを始めた。(市原幸彦)
スマホ・ゲーム・パソコンの使用は1日1時間以内に
調査は、脳科学者の川島隆太氏が所長を務める東北大学加齢医学研究所と市教委による「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会」(平成22年設立、大学との連携は国内初)が行ったもの。平日1日当たりの通信アプリの長時間使用は、勉強時間や睡眠時間の短さによる学力低下への影響力よりも圧倒的に強いことが分かった。
「通信アプリが直接的に成績を下げる方向に作用している可能性があります。分析を行った研究チームとしても、非常に衝撃的な結果でした。なぜなら通信アプリの使用によって勉強時間や睡眠時間が少なくなるから成績が落ちるわけではなさそうだからです」と市教委学びの連携推進室の佐藤淳一室長。
同プロジェクトでは、市の標準学力検査(小3~中3、19年から実施)に加え、22年度から生活・学習状況調査を開始。25年度に中学生を対象に、スマホ・携帯などの使用状況について調査し分析した。
その結果、インターネット接続の長い生徒ほど成績が下がる傾向にあることが分かった。とくに数学に強い影響が出た。平日に勉強時間30分未満でスマホを持っていない生徒の平均点(63・1)より、2時間以上勉強してスマホも4時間以上する生徒の平均点(57・7)の方が悪くなっていた。
26年度はさらに踏み込んで、LINEなど通信アプリの使用状況について調査。平日に2時間以上家庭で勉強している層では、通信時間が1時間未満の生徒の平均点が71・1点に対し、4時間以上の生徒の平均点は59・5点と11・6点の差が出た。勉強時間が30分未満の層では、通信時間が1時間未満の場合が58・6点、4時間以上の生徒は44・9点と13・7点の差があった。
また、どの勉強時間の層でも、スマホ、通信アプリ、ゲーム、パソコンなど使用が1時間未満の生徒の点数は、まったく使わない生徒より全体的に高い傾向にあった。ネット接続による学習ソフト利用のほか、「息抜きとして少ない時間使用しているためでは」(市教委)という。
市教委によれば、スマホを使っている時の脳の働きを調べたデータがまだなく仮説の段階だが、川島氏は「テレビを見たりテレビゲームをしている時、人間にしかない脳の前頭前野は安静時以上に血流が下がり、働きが低下する。光トポグラフィー検査でも、ネット接続している間は脳の活動が停止する結果が得られている。スマホを長時間利用することによって、学習の効果が失われるのではないか」と話しているという。
仙台市は、調査結果のリーフレットを作成し、昨年度と今年度に市内の全小中学校と保護者に配布。さらに今年度から「親への啓発、教員のデータの共有、子供たち自ら使い方を見つけていく、という三つの施策を並行して始めました」(佐藤室長)。
3月に、学級活動や道徳の授業プランの例として、「ゲーム・スマホ・携帯と上手に付き合っていこう」を小中学校用の2種を作成し、教員全員に配布。
内容は(中学生の場合)、まず個人に折れ線を隠したグラフを示し、スマホ・携帯の使用時間と成績の関係を考えてもらう。次に使用時間と成績の関係のグラフを示し、班で各自の考えを紹介。その後、他都市の取り組み(夜9時以降は使用しない、学校に持っていかないなど)も参考にしながら、個人にスマホ・携帯との付き合い方を考えてもらい、自分なりのルールを考える。
まとめとして「スマホもゲームもパソコンも、使うのは1日1時間以内に抑えよう」と先生が指導する。生徒からの発言を大切にしたまとめでもよい。児童・生徒には学習カード(ワークシート)を書いてもらう。これらのデータは市の教員全員が共有するイントラネットに流し、自由に閲覧できる。
「大人社会がスマホを完全に受け入れているし、学習の中で電子黒板やタブレットなどICT(情報通信技術)の活用は促進されていく。止めろと強制はできない。問題は使い方です。子供たちに考えさせ、内面から変えていくことが必要です」と佐藤室長。研究活動は引き続き継続し、今年度からは個人の追跡調査もできるようにしている。