秋田市で「木育キャラバン」、木と生きることを学ぶ

東京おもちゃ美術館主催

 東京・四谷に「ふれて遊べる体験型ミュージアム」東京おもちゃ美術館がある。同館では2013年から全国各地で「木育(もくいく)キャラバン」を開催している。秋田市で2日間にわたって開かれたキャラバンを訪ねた。(伊藤志郎)

林業の担い手増加や地域づくりも視野に

木と生きることを学ぶ

飛騨高山の「つみぼぼ」。伝統人形の形をおもちゃにした。いろいろな積み方が考えられる(秋田市にぎわい交流館AU)

 秋田駅から徒歩約10分の秋田市にぎわい交流館AU(あう)で「木育キャラバン」が1月25、26の両日開かれた(秋田県主催)。約2000個の「木の卵」で満たされたプールや、木の葉っぱの形をした積み木、回して遊ぶ独楽(こま)や綱を引いて動かす犬など、国産材にこだわった木のおもちゃが大集合。母と子はもちろん、ふと通りかかった老若男女が、最初はこわごわ、やがて熱心に遊び始めた。木のおもちゃには、不思議な魅力がある。

 東京おもちゃ美術館は、新宿区の旧四谷小学校を借りてNPO法人日本グッド・トイ委員会が運営。おもちゃに触れて遊び、手作りコーナーもある。2013年から始めたキャラバンは全国15カ所を数える。行政、企業、大学、おもちゃコンサルタントなどの要請があれば出掛ける。

 村民約1600人の岡山県西粟倉村で開催した時は2日間で約1200人が来場した。キャラバンの開催期間は通常2日間だが、年末年始は特別に沖縄県豊見城で20日間の長期キャラバンを実施している。昨年11月には同館の姉妹館として国頭村に「やんばる森のおもちゃ美術館」が誕生した。

 グッド・トイキャラバン館長の曽我部晃さんによると、木育は06年に北海道で提唱された言葉で、08年には林野庁が採択し全国に広まった。「食育」という言葉があるように「木とふれあい、木に学び、木と生きることを学ぶ活動」だ。

 林業の担い手を増やし、林づくり・地域づくりも視野にある。また東京おもちゃ美術館では、シニアが活躍できる場の提供、手工芸や創作の指導、おもちゃ学芸員の養育にも力を入れる。

 「おもちゃの魅力って何ですか」。素朴な疑問を曽我部さんにぶつけてみた。

 「日本には、黒檀のように重い木もあれば、桐より軽い木もある。木には、柔らかさ、硬さ、冷たさなどの手触り、ぶつかり合う時の音、匂(にお)いなどがあり、遊びの即興性もある。積み木崩しやけん玉では、集中力も養われます」と語りながら、曽我部さんが記者を誘ったのは小木片を使った単純な積み木。

 交互に積み重ねるのだが、曽我部さんは積み重ねた木の間にそっと木をはさみこむ。記者も負けじと入れるが、幾つかやっていく間に崩してしまい、ゲームセット。これが、「コミュニケーションおもちゃ」なのだという。

 「『積み木しませんか』と言うより、『積んでみませんか 動かしてみませんか』と語りかけて、その人の気持ちが動くのがいい」と曽我部さんは話す。おもちゃのいろいろな遊び方は、同館のボランティアで、赤いエプロンのおもちゃ学芸員が教えてくれる。

 おもちゃの素材はさまざまだが、同館では木がメーン。100カ国15万点に及ぶ収蔵品から企画展示も行う。

 三つに絞って、曽我部さんに会場のおもちゃを紹介してもらった。

 一つは、島根県出雲市の「木香ブロック」。四つ葉をイメージした作品で、平たいのと高さを持つ2種類がある。出雲市を代表する5種類の木、スギ、ヒノキ、松、クリ、アスナロを使い、色や木目が異なる。作るのは、おもちゃメーカーではなく建具屋さんで、女性に人気がある。会場でも、ふと立ち寄った婦人が熱中するのを目撃した。平面に並べてできる文様の意外性も面白い。

 二つ目は、飛騨高山の「つみぼぼ」。魔除けとされる伝統人形「さるぼぼ」(猿の赤ちゃん)に似せたもので、顔部分をイタヤカエデ、四肢をスギで作る。1分以内に積み上げた高さを競う、というような遊びもできる。

 記者と曽我部さんで対決。曽我部さんはどんどん積んでいく。記者も遅れじと積むが、崩れてしまい、再び振り出しに戻って積んでいく。と、曽我部さんが焦って崩落。結局、記者が勝ってしまった。「遊びには意外性があります」(曽我部さん)。

 三つ目は、冒頭で紹介した「木の卵のプール」。東京おもちゃ美術館には約2万個のヒノキ材のボールを敷き詰めた「木の砂場」があり、横になって転がるなど子供に大人気。会場のプールに記者も入ったが、足の下は不思議な感触だった。

 2歳の男の子と来たお母さんに話を聞く。「家では木のレールと汽車が大好きです。5種類ほど遊んできましたが、これが好きなようでずっとやっています」。五つ連結した車を上から転がすと反転して下に落ちていく。確かに、反転する様子がおもしろい。男の子は「速いね。シュシュポッポッ」と声を出して満足した様子だった。

 木香ブロックで遊ぶ30歳代の女性2人連れ。「無心になります。ストレス解消になるかも。こんなに高く詰めるとは思わなかった。木がやさしい」。東京おもちゃ美術館にやって来た父親が飽きないで過ごすというのも、「なるほど」と納得した。