晩鐘の音にもクレーム


地球だより

 フランス西部ブルターニュ地方にある人口3000人足らずの町、マルティニ・ファエルショには、数キロ先からも見える立派なカトリック教会の聖堂が立っている。ブルターニュといえば、フランスで最もカトリック信仰が強い地方だ。

 フランスでは聖堂が町の中心に位置し、鐘楼の鐘の音が郊外に広がる田園にまで響き渡る。夕暮れに農作業を終えた夫婦が鐘の音を聞きながら祈るミレーの「晩鐘」が思い起こされる。

 教会中心の生活は大きく様変わりした。マルティニ・ファエルショでも信者は激減し、教会の裏に立つ聖職者の館も今はアパートになった。15年前に老朽化で鐘が落下し、修復と新しい鐘を設置するのに資金が集らず、元に戻すのに10年もかかった。

 ところが、今度はその鐘の音をうるさいと文句を言う住民が出てきた。教会と役所には、鐘を鳴らすのをやめるよう求める訴えが寄せられた。

 それを誰よりも嘆いたのは、生涯、この町で過ごす93歳のジャンヌさんだ。彼女もまた、聖堂と同様、町を長年見守ってきた。鐘楼が倒壊した時、「あれほど恐ろしい出来事はなかった」と語るジャンヌさんは無論、筋金入りのカトリック教徒だ。3年前に亡くなった夫とは70年間連れ添った。

 彼女は地元紙のインタビューで、最近は簡単に離婚してしまう夫婦が多いことについて、「私が若い頃は、この町で離婚した夫婦の話を聞いたことはありません」と語っていた。

(M)