反朴デモの魔女狩り的背景
韓国の朴槿恵大統領は、国会の弾劾訴追案可決に伴う憲法裁判所の審理と特別検察官の捜査に直面しているが、最近、支持者による弾劾反対デモが全国的に拡散している。朴大統領が特殊な宗教家の家族や関係者による国政紊乱を招いたのは事実だが、「崔順実ゲート事件」はメディアの事実歪曲と国よりも自分の栄達や保身を優先する政治屋、そして親北左派団体が作り上げたものだ。
事件の発端となった(タブレット)PCは崔容疑者のものかどうかすら確認されておらず、スポーツ関係の財団は大統領の選挙公約の一環として設立され、財閥企業が後援した資金も不正に使用された形跡がない。にもかかわらず、反朴デモでは最初から大統領の「下野」や「逮捕」を訴えてきた。
韓国人に成りすました北朝鮮のサイバー心理戦に翻弄された人々がデモを煽動しているためだ。最近は、朴大統領の「即刻下野」や「逮捕」を訴えて憲法裁などに圧力を加えるだけでなく、親北元議員の釈放や高高度防衛ミサイル(THAAD)配備反対(その理由は、レーダーの電磁波が住民や農作物に悪影響を及ぼすというもの)まで主張している。李明博政権でも米国産牛肉の輸入反対ローソクデモが猛威を振るったが、後に狂牛病疑惑は嘘だったことが判明した。
朴大統領が崔容疑者たちを適切に管理・監督できなかった責任は重い。しかし本人が収賄・蓄財したり、親族に利益供与を行った形跡はない。両親は凶弾に倒れ、本人は独身。実の妹弟の青瓦台(大統領官邸)出入も禁じてきた。実妹の夫も朴大統領が崔容疑者に振り回されたことを強く非難しているが、その背景には自分たちへの金銭的な支援がなかったことへの強い不満があると言われている。
韓国では、今回の崔順実ゲートを比喩して「はたいて埃の出ない人はいない」、「糞まみれの犬がぬかまみれの犬をとがめる」(自分の方が欠点が大きいのに、他人の小さな欠点を非難する)、「踊るのは熊だがお金は飼い主が取る」、「猫に魚屋を任せるな」などの諺が使われている。
幸い最近のデモは暴力的にはならず、より成熟した国民の水準を示しているが、朴大統領に対する大衆の不平不満が大きいのは事実だ。しかし、その不平不満を煽って政権を奪取するために利用する政治屋の方がより深刻な問題だと、沈黙する多くの国民は知っている。実際、朴大統領よりも北朝鮮に4億5千万¥外字(93d9)を不正送金したり、国連人権決議への対応について北朝鮮にお伺いを立てた野党のトップ2人(朴智元・国民の党院内代表、文在寅・共に民主党元代表)を逮捕すべきであるという声も根強い。
大衆デモやマスコミの偏向報道で世論を煽り立てて憲法裁や特別検察官に圧力を加えるやり方は、中世の魔女狩りや共産主義国家の人民裁判と本質的には変わらない。憲法裁の審理と特別検察官の捜査の結果を予断なく待つことこそ、成熟した民主主義社会に必要なことであるはずだ。
(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授)