陰りが見える福祉大国
地球だより
福祉大国フランスでは、家族手当をはじめ、大学まで授業料は無料で失業手当も手厚い。押し寄せる移民たちは、その恩恵を受ける一方で、失業者や最低賃金で働く人が多く、税金を払わず、恩恵にだけ浴している場合が少なくない。
フランスが戦後、福祉大国の道を邁進(まいしん)するに当たって、この国に絶大な影響を与えてきたカトリック教会は、人道支援の観点から賛成した。一方、宗教とは距離を置く左派も弱者救済は国の当然の責務ということから支持し、現在の福祉大国フランスが出来上がった。無論、不況の長期化で国の財政が疲弊する中、福祉大国にも陰りが見えている。
近年、失業保険も期限が短くなり、生活苦にあえぐ人も増えた。それに白人フランス人は子供が少ない。子供がいないために家族手当もなく、高額の税金を払っている友人のマリアレーヌ夫婦は20年前、「子供が多い人を助けるのは当り前」と言っていた。
ところが最近、彼らは「働かないのに子供が多い移民に、自分たちの税金がつぎ込まれるのには、もううんざり」と言いだしている。彼らは熱心なカトリック教徒で「フランシスコ法王が弱者を助けなさいとお話しされるけど、イスラム教の価値観には同意できないものが多い」と困惑気味だ。
一方、フランスの左派は、イスラム過激派の考えには、まったく合意できないだけではなく、宗教は結局、人間の欲望を否定し、人を狂わせ、殺戮(さつりく)も平気で行うと批判的だ。今年1月にパリでイスラム過激派に襲撃され、11人が犠牲になった風刺週刊紙シャルリエブドの編集スタッフも、ばりばりの左翼の無神論者たちだった。
だから、保守的カトリック教徒のフランス人も、宗教そのものを嫌う左翼も、イスラム過激派にとっては敵ということになる。マリアレーヌさんは言う。「2005年に起きた暴動もそうだったけど、アラブ系移民も過激なイスラム活動家も、いつも狙うのは移民が多い地域や左翼の知識人が住むパリの東側だよね。不思議よね」と。
(A)