社会へ同化難しいアラブ移民
フランス・パリで13日に起きた同時多発テロは、死者129人、負傷者300人以上という同国で戦後最大規模のテロ攻撃となった。パリ市内および北郊外の国立競技場など6カ所で同時に起きたテロ攻撃に対して、政府は71年ぶりとなる非常事態宣言を発動、国境の封鎖を行い、国家として3日間喪に服すことを決めた。
(パリ・安部雅信)
今年、未遂含め10件のテロ
テロのニュースは世界中を駆け巡り、ソーシャルネットワーク上では弔意のコメントが世界中から寄せられた。フランスでは今年1月にパリ市内にある風刺週刊紙シャルリエブド本社を含む3カ所でテロが発生、11人が犠牲となっている。実行犯はシリアやイラクで活動する武装組織「イスラム国(IS)」に影響を受けたり、戦闘訓練を受けていた。今回もテロの首謀者は、ベルギー・ブリュッセル郊外に住むアラブ系移民のフランス人活動家グループによって実行されたとみられている。
フランスでは今年に入って、未遂を含め10件のテロが起きている。2月3日、南仏ニースの市街地で、ユダヤセンターを襲撃しようとして警備兵3人を負傷させた男(30)が現場で逮捕された。4月19日には、パリ南方郊外で女性講師(32)を殺害して逮捕されたアルジェリア国籍の学生が同地区数カ所の教会を襲撃する計画を立てていた。
さらに6月26日には南東部リヨン郊外にある米国系ガス会社エアプロダクツのガス工場で爆発があり、現場から斬首された工場長の遺体が発見され、2人が負傷した。7月13日にもスペイン国境沿いにある海軍監視基地へのテロ攻撃を計画していた元海軍兵士1人を含む3人が逮捕されている。
また、8月21には、アムステルダム発パリ行きの国際高速列車タリスの車内で襲撃未遂事件が発生、実行犯のモロッコ国籍のアルカザーニ容疑者(25)は襲撃直前、自分の携帯電話でIS指導者が聖戦を呼び掛ける動画を視聴していたことが確認されている。
ほかにも、7月6日にはフランス南東部のマルセイユ北西50㌔に位置するミラマにあるフランス軍の弾薬補給基地から起爆装置、手投げ弾、プラスチック爆弾などが盗まれるなど2件のISの関与が濃厚な事件が起きている。
事件の背景には、フランスが、米国が主導するシリアやイラクのIS拠点への空爆に参加していることが挙げられる。一昨年は仏軍がアフリカ・マリのイスラム勢力掃討作戦を行っている。フランスはかつてシリアを統治していた過去もあり、イスラム教徒にとっては過去の怨念もある。
一方、フランスが欧州最大のアラブ系移民600万人(うちイスラム教徒が推定500万人)を抱えていることが挙げられる。フランスの移民同化政策はうまくいっておらず、特にフランスで生まれた2世、3世が、フランス人でありながら、教育や就職で差別を受ける傾向が強く、イスラム女性のブルカやスカーフ着用が禁止されたことなども影響し、反国家感情が強まっている。
イスラム聖戦主義に感化され、シリアやイラクの戦闘地域に行く若者の数は欧州では最大規模。仏国内でテロを実行する可能性のある帰国者も増えている。今回のテロの実行犯の中にはシリア難民に紛れて欧州に入ってきたテロリストもいた。国外でISへの攻撃を行い、国内でイスラム教徒やアラブ移民を差別しているフランスは、ISにとって忌むべき敵国であることは間違いない。