「パリ同時テロ」ともう一人の主人公
メルケル独首相は14日、パリで前日発生したテロ事件(現段階129人死亡、負傷者352人)について声明を発表し、パリ同時テロに対して厳しく批判する一方、その犠牲となったフランス国民へ連帯を明らかにし、「如何なる支援も惜しまない」と語った。
メルケル首相の声明を聞いていると、同首相が今回のテロ事件でかなり大きなショックを受けたことが直ぐに感じられた。声だけではなく、表情も硬かった。ひょっとしたら、メルケル首相は自身の責任を感じていたのではないか。すなわち、シリア難民の受け入れを表明したことで、中東からテロリストを欧州に輸入してしまったのではないか、という苦い思いだ。
仏メディアによると、パリ警察当局は自爆したテロリストからシリア旅券とエジプト旅券が見つかったという。シリア旅券はギリシャ当局が先月初め、同国東部のレロス島に入国したシリア人に発行したものという。一方、11月5日、オーストリアから独バイエルン州国境に入国したモンテネグロ出身の男性(51)が車の中に小型機関銃、弾、爆薬TNTを所持していたとして逮捕されたが、ドイツ当局は14日、「車のナビゲーションから男はフランスへ行く途中だった」と説明し、今回のパリ同時テロ事件との関係について捜査を開始したという。
早急な判断は慎まなければならないが、自爆したテロリストからギリシャ当局が発行したシリア旅券が見つかったこと、テロ事件の数日前、オーストリアからドイツ入りした男が武器と弾薬を所持し、フランスに行く予定だったという事実から、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」のメンバー、ないしはシンパが欧州に殺到する難民の中に混じり込んでいた疑いが出てくる。
その一方、パリのバタクラン劇場でテロリストを目撃した市民は「テロリストは25歳前後と若く、流ちょうなフランス語を喋っていた」という。これが事実とすれば、フランスに住むテロリストが存在し、外部と連携していたことは明らかだ。ちなみに、バタクラン劇場で自爆したテロリストは29歳のフランス国籍を有する男性で、警察当局によく知られた過激派だったという。
外部から侵入したテロリストとホームグロウン(homegrown)のテロリストらが連携しながら今回の同時テロを実行したと考えられる。実際、オランド仏大統領は14日、「パリ同時テロは国内外のテロリストが連携した事件」という見解を明らかにしている。
パリ当局によると、パリの劇場周辺に駐車していた車にブリュッセルの駐車券が発見された。モラン仏検事によれば、車はブリュッセルに住むフランス人が借りていたという。ブリュッセルの警察当局は14日夜、パリのテロ関連容疑で3人を逮捕している。
繰り返すが、シリア、イラクから難民を欧州に殺到させる契機を提供したのはメルケル首相の「ダブリン条約を暫定的に停止し、紛争で犠牲となったシリア難民を受け入れる」と語った発言だ。それを受け、多数の難民・移民がバルカン・ルートでバイエルン州に殺到したが、同時に、イスラム過激派テロリストにも欧州入りの機会を提供したことは間違いないだろう。
パリ同時テロ事件勃発直前、メルケル政権は難民の受け入れを制限し、ダブリン条約の再施行、入国審査の強化などを決定し、難民政策の修正に乗り出したばかりだった。
メルケル首相は紛争から逃げてきた難民へのハート(Herz、思いやり)はあったが、どれだけの難民を受け入れ、収容できるかの計画(Plan)はなかった。テロリストはその無計画性に乗じて欧州に入り込んできたのではないか。ある政治学者は、「大量の移民は武器となる」と語っているほどだ。
パリ同時テロ直後、ポーランドから「わが国は今後、難民の受入れを拒む」というニュースが流れた。ワルシャワの決定は、決して唐突なものではない。パリ同時テロ事件から教訓を引き出した結果だろう。
(ウィーン在住)