バチカンに再び魔の手 「第2のバチリークス」発覚

機密文書盗難で2人逮捕

 カトリック総本山のバチカン(ローマ法王庁)司法当局は2日、バチカン関係者の2人を機密文書盗難と漏洩(ろうえい)容疑で逮捕したと発表した。バチカン放送独語電子版によれば、1人はスペイン教会神父のルシオ・アンヘル・バジェホ・バルダ神父(54)、もう1人はイタリア・モロッコ出身のソーシャル・メディア専門家のフランチェスカ・シャウキ女史(33)だ。2人はバチカン経済部門機構改革委員会(COSEA)に従事していた。情報漏洩事件に揺れるバチカンの近況を報告する。(ウィーン・小川 敏)

伊ジャーナリスト2人も漏洩で捜査

「バチカン刷新は困難」

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フランシスコ・ローマ法王 9月30日、バチカン(AFP 時事)

 バルダ神父は法王庁諸行政部門およびその財務を管理する「聖座財務部」の次長だ。同神父はカトリック教会の根本主義グループ「オプス・デイ」(神の業)と繋(つな)がりがある。シャウキ女史は既に釈放された。調査に協力を表明したからという。

 イタリアのメディアによると、バルダ神父は暴露本の著者2人のジャーナリストに機密文書を手渡したという。流失した情報には、タルチジオ・ベルトーネ枢機卿(前国務長官)の腐敗(巨額な住居費など)、宗教事業協会(バチカン銀行、IOR)の疑惑口座、バチカンが運営する小児病院「バンビーノ・ジェズ」の不正運営などが含まれていたという。

 2人のジャーナリスト(ナジ氏とフィティパルディ氏)は先日、新著を出版したばかりだ。それに対し、フランシスコ法王は「犯罪だ」と厳しく批判している。

 バチカン司法当局は11日、2人のジャーナリストに対してバチカン刑法9条116に違反するとして捜査を開始した。ちなみに、バチカン司法当局がイタリアのジャーナリストに対し捜査を開始するのは今回が初めてだ。なお、バチカンのロンバルディ報道官は10日、4人の枢機卿が情報漏洩容疑で調査を受けたというメディア報道を否定している。

 バチカンでは前法王べネディクト16世在位中の2012年、機密文書の流出事件(通称バチリークス)が生じたことがある。法王の執事(当時)パオロ・ガブリエレ被告(当時46)がべネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡や内部文書などを盗み出し、今回の事件にも関与した暴露ジャーナリスト・ナジ氏に流した事件だ。

 ガブリエレ被告は同年10月6日、窃盗罪として禁錮1年半の有罪判決を受けたが、べネディクト16世は判決後、ガブリエレ被告に恩赦を与えた。

 あれから3年後、第2のガブリエレが現れたのだ。今回は法王執事ではなく、バチカン聖座財務部のナンバー2(次長)だ。イタリアのメディアは今回の機密文書の窃盗・漏洩事件を“第2のバチリークス”と呼んでいる。

 新著の著者の一人、ナジ氏は3日、新書について、「フランシスコ法王のバチカン刷新が如何(いか)に困難かを明らかにした。バチカン内で腐敗、汚職、不正なビジネス、特権乱用などが頻繁に行われている」と述べている。

 バチカンは昔から「秘密の宝庫」といわれてきた。その宝物(機密情報)を見つけ出すために多くのジャーナリストが蠢(うごめ)く一方、バチカンは必死にその機密を守るために腐心してきた。南米出身のローマ法王フランシスコが登場し、バチカン機構の刷新に乗り出して以来、その宝物を必死に守ろうとする一部の高官(枢機卿を含む)と改革派聖職者の間で情報戦が激化してきている。バチカンでは今後、“第3、第4のガブリエレ”が出てきても決して不思議ではないだろう。

 なお、第2バチリークスとの関係は不明だが、バチカン市国のリベロ・ミローヌ監視長官のコンピューターがハッカー攻撃を受けた事件で、バチカン司法当局は捜査を開始している。同氏は今年6月、フランシスコ法王によってバチカンの経済部門、金融部門の機構刷新のために任命された人物だ。