難民が避ける国


地球だより

 大量の難民がシリアやイラクから押し寄せる欧州だが、なぜかフランスを目指す難民は少ない。英仏海峡を命懸けで渡り英国に向かおうとする難民が押し寄せるフランス北西部カレーでは、誰もフランスに踏みとどまろうとはしない。

 カレーで税務官を務めるルビルワ氏は、よく行く地元のカフェで、その理由を耳にするという。まずは、難民申請に恐ろしく時間がかかり、なおかつ書類は全てフランス語で担当官も英語を話す気が全くない。特に難民認定のハードルは非常に高く、認定されるまで何カ月も路上など劣悪な環境で過ごすことになる。

 次にフランス語がしゃべれなければ、掃除婦としても雇ってくれないし、高い失業率のフランスでは、仕事は奪い合いになる。当然、移民や難民の入り込む余地は少ない。加えて黒人やアラブ人に対する差別もある。イスラム教徒への嫌悪の目もある。

 フランス政府は今後2年間で3万1000人の難民を受け入れる方針を出しているが、実際に受け入れる施設は足りないし、認定を迅速に行う努力を始めているといっても、認定が下り、住宅や仕事、子供の学校などが決まるまでに気の遠くなるような時間がかかる。

 難民が押し寄せるドイツでは、フランスへ行くように説得しているが希望者の数は1000人にも満たない。実は難民たちもスマートフォンを持ち、日々、ソーシャルネットワークなどで情報を得ている。誰かがフランスで難民申請に苦労しているなどネガティブな情報を流せば、あっと言う間に難民の間に広まる現実がある。

 実際、難民たちの間では、フランスは難民を歓迎する国ではないという情報が定着してしまっている。

 それに宗教の問題もある。イスラム過激派「イスラム国」(IS)の脅威から逃れてきたシリア人やイラク人にとって、ISの戦闘に加担する若者が最も多いフランスは敬遠されてもおかしくない。

 だが、ヨーロッパ全体でドイツに次ぐ難民受け入れで手を挙げているフランスにとって不人気なのは何とも言えない。フランスの人道支援団体で働くパトリック氏は「政府や企業の対応の悪さで人道支援できないのは恥じるべきことだ」と述べている。

(M)