北のクリスチャンの「祈り方」


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創設60周年を迎えた「オープン・ドアーズ」の記念イベント(ウィーン工科大学内で、2015年9月19日撮影)

 世界のキリスト信者の迫害状況を発信してきた非政府機関、国際宣教団体「オープン・ドアーズ」は今年、創設60周年を迎えた。それを祝して19日、ウィーン工科大学内で記念イベントが開催された。当方も招待されたので参加した。

 「オープン・ドアーズ」によれば、世界でキリスト信者たちがその信仰ゆえに迫害され、犠牲となるケースが増えてきている。その数は1億人にもなると推定されている。特に、北アフリカ・中東諸国では少数宗派のキリスト信者たちはイスラム過激派テロ組織の襲撃対象となり、家を追われ、難民となって彷徨っている。キリスト信者への迫害状況は2000年間のキリスト教歴史でも最悪だという。

 イベントでは3人のメイン・スピーカーが報告した。読者にその概要を紹介する。
 最初は、テュ―ビンゲン大学のライナー・ロートフス教授がイラクを視察してきた体験と信者たちとのインタビューの内容を踏まえて報告した。

 同教授は、「イラクやシリアではキリスト信者たちが虐殺されたり、追放されている」と報告する一方、「イスラム教スン二派過激テロ組織「イスラム国」(IS)は今日、単なる過激テロ集団というより、機能する国家形態の構築を目指してきた」と警告を発した。人質の首を斬り、歴史的遺産を破壊している一方、占領地の武器や原油を資金源とし、労働者に対しては高給な賃金を払うなどを通じて、ISへの忠誠心を獲得してきた。若い女性たちは売られ、結婚年齢を過ぎた中年以上の女性たちは負傷したIS兵士への血液供給源となっている。すなわち、血液バンクだ」と指摘した。

 2番目はナイジェリアのイスラム過激テロ組織「ボコ・ハラム」(Boko Haram)について、同国のキリスト教会の Yakubu Joseph 牧師が報告した。「国際社会はボコ・ハラムの蛮行については報道されているから知っているだろう。ナイジェリアは北部がイスラム教徒、南部がキリスト教徒が多数を占める国だ。キリスト信者たちはいつ襲撃されるかと不安の中で生きている。私は市場で買い物に出かけたとしても、安全で帰宅できるか分からないといった感じだ。キリスト信者たちは神の加護を求め祈っている。ナイジェリアのキリスト信者たちのために祈ってほしい」と述べた。

 3番目のスピーカーは脱北者の金ヨンソク(Kim Yong Sook)女史だ。「オープン・ドアーズ」が毎年発表するキリスト教弾圧インデックスでは北朝鮮は毎年、最悪の「宗教弾圧国」だ。その国で生きてきたキリスト信者の金女史の証は壮烈なものがあった。

 聖書を持っているだけで拘束され、悪くすれば収容所に送られ、強制労働を強いられる。そこでは生きて帰ることが難しい状況だという。金女史が幼い時、父親が座って首を垂れている姿をよく目撃した。歳をとれば皆あんな風になるのかと思っていたという。実際は、父親は祈っていたのだ。北では祈ることは許されないから、祈っていることが分からないように祈らなければならないことを知ったという。

 金ファミリーがキリスト信者と分かったために、家族は収容所に送られた。刑務所では父親と一度会ったが、その後は会うことが出来なかった。食事は普通なら食べることができないものだったが、生きていくために口に運んだ。

 「北では1990年代、飢餓が席巻していた。食べるものがなく、路上には多くの人が飢えで亡くなった。路上の亡くなった人を見て、生きている人は『彼らはもはや飢えで苦しむことがない』と羨ましく思った。それほど飢餓は激しかった。そのような中で、キリスト信者たちは生き延びていかざるを得なかった」と報告した。

 2度目の脱北で亡命し、キリスト系支援団体の助けなどを受けて第3国を経由して韓国に亡命した。金女史は「私は今、北朝鮮のキリスト信者支援運動に関与している。自分の息子が牧師となって歩んでいる姿を見て神の手を感じている」と証した。

 当方は北朝鮮の政治家、外交官、ビジネスマン、学者とは会見したことがあるが、北のキリスト信者に遇ったのは今回が初めてだった。その信者が語る内容は多分、普通の生活しているわれわれには想像できないだろう。小柄な金女史がしっかりとした声で神を証する姿を見て、感動を覚えた。

(ウィーン在住)