中韓の「疎外」もお構いなし 北、核・ミサイル発射示唆

小型化誇示、米揺さぶりへ

専門家「5年後は印パ並み」

 北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射を示唆したのに続き、4回目の核実験の実施までほのめかし、日韓両国はじめ北東アジア地域にまたもや深刻な脅威を突き付けている。周辺諸国の政治環境の変化にも動じず、北朝鮮はただ粛々と「核・ミサイル」路線を邁進(まいしん)している。(ソウル・上田勇 実)

来月の党創立70年で国威発揚

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北朝鮮の金正恩第1書記=8月20日(AFP=時事)

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は14日、国家宇宙開発局長が「新たな地球観測衛星の開発が最終段階にある」とし、「より高いレベルの衛星を打ち上げられる発射場を改築、拡張する事業が進められている」と述べたと伝え、これまで知られてきた射程約1万㌔を上回る長距離弾道ミサイルを発 射する可能性を示唆した。

 また、その翌日には原子力研究院院長が「米国と敵対勢力が敵視政策にしがみつくなら、いつでも核の雷鳴で応える万全の準備ができている」と述べたと伝え、核実験の実施をほのめかした。

 “予告”通りとするなら、長距離弾道ミサイル発射は2012年12月に北朝鮮北西部の東倉里にある「衛星」発射場から「銀河3号」と称して打ち上げて以来2年10カ月ぶり、核実験の方は13年2月に北東部の咸鏡北道吉州郡豊渓里付近の地下核実験場で行われて以来2年8カ月ぶりとなる。いずれも金正恩第1書記が最高指導者になって以降では2度目だ。

 今回の「核・ミサイル」脅威は、来月10日に北朝鮮で予定されている労働党創立70周年記念式に、「人工衛星」発射という科学技術力の高さと米国と対等に渡り合える「核保有国」としての地位を一般住民にアピールする国威発揚用という側面が強いとされる。

 70年という大きな節目を迎え、住民に金第1書記の「実績」を誇示する必要がある。北朝鮮では昔から「行く道が険しくとも笑いながら行こう」という欺瞞(ぎまん)的なスローガンを広めることで、食糧難でもプライドや信念を保つことを強要してきた。「腹がすいても衛星が飛べば満足するよう飼い慣らされてきた」(北朝鮮ウオッチャー)のだ。

 また米中首脳会談(9月25日ワシントン)や米韓首脳会談(10月16日同)を前にしたタイミングは、核放棄に応じないことなどを理由に対話を拒んでいる米国との交渉を再開させ、自分たちのペースに巻き込もうという米国揺さぶりが狙いとみられている。

 仮に北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射、核実験の両方に踏み切った場合、核の小型化と兵器化を国際社会に誇示できる。

 韓国政府系シンクタンクの国家安保戦略研究院の蔡奎哲上級研究委員は、米国の北核専門家オルブライト博士の試算を根拠に核開発費用を中間価格に設定した場合、「2020年までに70個程度の核兵器を保有」し、これは「北朝鮮が5年後にインドやパキスタンに次ぐ核強大国になることを意味する」と指摘している。

 北朝鮮の「核・ミサイル」脅威はこれまでに何度も繰り返されてきた挑発だが、今回特に注目点は今月3日の中国・北京での「抗日戦勝70周年記念式」からそれほど日数が経過していなかったということだ。

 記念式では、習近平・中国国家主席と朴槿恵・韓国大統領の接近ぶりが目立った半面、中国にとって伝統的な友好国であるはずの北朝鮮から出席した最高指導者・金正恩第1書記の側近である崔竜海・党書記の存在感が薄く、見方によれば「中韓による北朝鮮外し」だった。

 ところが、北朝鮮はそんなことはお構いなく、「暴れん坊」ぶりを発揮している。背景には、中国が国益に反するという理由で北の「核・ミサイル」脅威に反対しても、北朝鮮の地政学的な戦略価値を捨ててまで北朝鮮に圧力を加えることはないという「読み」がある。記念式で中国が北朝鮮を遠ざけて韓国に近づいたのは「ジェスチャー」にすぎなかったと見ているわけだ。

 また「北朝鮮は孤立が深まるたびに挑発を慣行してきた」(韓国大手紙・朝鮮日報)のも確かだ。「中韓首脳会談で南北統一問題が話し合われ、米中・韓米・韓中日首脳会談が立て続けに予定されている外交局面にも孤立感を抱いたかもしれない」(同)。

 そもそも北朝鮮が核を放棄できない構造的な問題があることも忘れてはならないだろう。核開発は北朝鮮にとって金日成主席、金正日総書記が重視した「遺訓事業」だ。「革命の伝統」と称する血統主義で3代世襲を正当化し、祖父と父の「七光り」で最高指導者の地位に就いた金第1書記が 核を放棄するということは「遺訓事業」を無視する自殺行為に等しい。金第1書記とて北朝鮮の統治システムに挑戦するのは無謀なことなのだ。