観光大国の抗議デモ


地球だより

 年間8500万人以上の外国人観光客を集めるフランスは、押しも押されもせぬ世界最大の観光大国だ。ところが、フランス人は世界最高の「おもてなし」で世界一を保っているわけではない。世界的ツアー会社が実施したアンケートでも、フランスはサービスの質において世界最低の評価を得ている。

 確かに観光客へのレストランやカフェの接客係の対応は最悪で、注文しようと思ってもなかなかテーブルに来てくれないし、愛想も悪い。ブティックの店員も客が勝手に商品を触ると「誰が後で片付けると思っているの」と怒りだしたりする。

 世界1位を維持し続けている理由は、世界最大規模の世界遺産の数々、特に遺跡やルイ王朝時代やナポレオン時代に建てられた宮殿や町並み、さらには世界的ブランドとして知られる服飾品やワインがあるからに他ならない。

 だから、フランス人にとっては観光産業のために自分が犠牲になるなど毛頭考えない。例えば、世界最大規模のパリのルーブル美術館でも今春、職員が待遇改善の1日ストライキを決行し、多くの外国からの観光客が予定の変更を余儀なくされた。同美術館では毎年のようにストライキが行われ、そのたびに閉館されている。

 7月には、パリに次いで観光客を集める世界遺産の僧院モンサンミッシェルにつながる道が抗議デモで封鎖される事態となった。抗議デモを行ったのはフランス北西部カーン周辺の酪農家と畜産業者たちで、生産コストに見合わない極端に安い豚肉および牛肉の価格に抗議したデモで、道路を大型トラックや耕運機で封鎖した。

 一年で最も観光客を集める時期に道路が閉鎖されたことから、多くの観光客がモンサンミッシェル観光を諦めざるを得なかった。「おもてなし」どころか観光客に不快な思いをさせることの多いフランスだが、今でも世界最大の観光大国だ。

(M)