ギリシャの“5度目”の破産を避けよ
日韓の「正しい歴史認識」問題では「歴史から学べ」という表現を度々聞いてきたが、正直言ってピンとこなかったが、あのギリシャが建国(1830年)以後、4度、破産したという歴史的事実を聞いて、「アテネは歴史から学んでこなかったのか」と、思わず呟いてしまった。
オーストリア日刊紙「プレッセ」(7月10日付)に寄稿した歴史家で国家債務問題専門家のヴァルター・M・イバー博士は、「ギリシャは建国以来、4度、1843年、1860年、1893年、1932年に破産している。国家の破産ではギリシャは常習犯だ」という。政府総債務残高(対GDP比)が170%以上に膨れ上がった現在のギリシャの財政状況を見れば、同国が財政分野で厳しいことは誰の目にも明らかだが、過去に4度も破産していたという事実は余り知られていない。
イバー博士は「1843年、60年、93年の破産は主に対オルマン・トルコとの戦費調達が主因だった。1932年は世界の経済恐慌の影響だ。アテネは莫大な戦費を賄うためにロンドンなど海外で資金を借りまくったが、最終的には償還できない状況に陥った。ギリシャは建国以来、2008年までほぼ2世紀にわたって、常に金融危機下にあったのだ」と説明、現在のギリシャの金融危機は決して珍しくないという。
ギリシャの財政危機に直面した欧州の強国は無策であったわけではない。例えば、バイエルン王のオットー1世(在位1886~1913年)は当時、長期化する戦争で疲弊したギリシャ財政を健全化するためにバイエルン式の能率的財政機構を構築しようとしたが、ギリシャ国民の理解が得らずに実現されなかったという。債務返済不能国となったギリシャを何とか立て直そうとしたトリクウピス政権は経済状況が良くなると、再び巨額の資金を外国から借り出した、1890年代に入ると、経済危機が広がっていった。ちなみに、巨額の外国資金は軍隊の強化と国家公務員の人件費に使われ、国内のインフラ完備には投資されなかったという。そして1893年末には新たに国家破産に追い込まれていったのだ。
ギリシャのチプラス首相は現在、欧州連合(EU)、ユーロ圏グループ、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)らと政府債務の償還や金融支援を受けるために交渉を続けているが、欧州債権団は対ギリシャ金融支援では意見が分かれてきた。ドイツのショイブル財務相は、「ギリシャをユーロ圏から追放することもやむ得ないかもしれない」と考えている一人だ。同相はギリシャ政府の緊縮案には常に懐疑的だ、バルト3国も多分同じ意見だろう。一方、ギリシャをユーロ圏に留めさせたいと願っているユンケルEU委員長やオランド仏大統領は、「ギリシャ国民は今度の危機からきっと学んだはずだ」と、ギリシャ国民の奮起に期待している、といった具合だ。
ギリシャは6月末のIMFへの約15億ユーロ返済が滞ったばかりだが、7月20日に約35億ユーロ、8月20日に32億ユーロをECBへ償還しなければならない。次から次と債務返済日が訪れてくるのだ。ギリシャを取り巻く財政事情は本当に厳しい。
少し、チプラス首相の過去2週間の動向を思い出してみよう。同首相は先月末、ブリュッセルと交渉中に突然、緊縮案の是非を問う国民投票を実施すると表明。6割以上の国民がブリュッセルの緊縮政策に反対すると、今月10日、増税や年金見直しを含む改革案をブリュッセルに提示し、議会からその緊縮案への全権を得たばかりだ。最初は、緊縮案に反対の国民投票を主導し、そして今度は緊縮改革案を受け入れた政府案の容認を議会に求めたわけだ。「チプラス首相の政策はコロコロと変わる」といった批判が飛び出すかもしれないが、同首相にはそれ以外に他の選択肢がないのだ。なぜならば、欧州から支援融資を受けない限り、同国の5度目の破産は避けられないから
だ。
イバー博士は「現在の危機は単に財政的問題だけではなく、歴史の中に深く根を下ろしたギリシャ民族のメンタリティ―と繋がった問題だろう」と述べている。
(ウィーン在住)