テロに動揺するパリ市民
地球だより
パリで1月にテロが発生して半年、またもフランスでテロ事件が起きた。1月にパリで起きたテロは、風刺漫画週刊紙シャルリエブドの編集部とパリ郊外のユダヤ食料品店が襲撃され計17人が犠牲となった。そして今回は仏南東部リヨン郊外の米系企業のガス工場で爆発テロが起き、1人が残虐な方法で殺害され、2人が負傷した。
今回のテロで逮捕された容疑者は、フランス東部ブザンソン近くの町で生まれたアラブ系移民の35歳の男だった。早速、スイスとの国境近くの容疑者が生まれた町や現在住んでいる住宅の近隣住民のインタビューがテレビで放映された。
生まれた町では、容疑者が通っていたモスク(イスラム礼拝所)のイマム(導師)がインタビューに応じた。それを見たフランス人たちは、その町にはイスラム教徒のアラブ系移民が多く住んでいることを知った。続いて事件現場から遠くない容疑者の家族が住む地区の住民の声が紹介された。
映像に登場した隣人は、全てアラブ系移民だった。フランス人といってもリヨン郊外の町にどんな人々が住んでいるのかは知らない場合も多い。しかし映像を見ると現実が分かる。無論、テロ現場は工場地帯だから、低賃金で働くアラブ系移民が多いのは想像がつくが、それでも複雑な思いがあることが想像される。
テレビを見ていた友人の白人フランス人は言った。「今じゃ、フランスのどこにでもアラブ人がいる」「テロリストは彼らの中のごく少数なんだろうけど、これ以上移民を増やすのはやめてほしい」。実際、移民排撃を政策に掲げる右派・国民戦線は、フランス第3の政党にのし上がっている。
フランス政府は最近、愛国教育を行う方針を固めたが、逆にアラブ系移民を追い込む結果になるという懸念の声も聞かれる。フランスでは公共の場で自分の信じる宗教の印を強調する物の着用が禁じられているが、最近はイスラム女性がスカーフを着用している姿をよく見掛ける。顔さえ出していればいいという妥協だ。
教会に通うカトリック教徒が激減し、左派のオランド政権は、法律からカトリックの教義の影響を受けている事項を徹底排除した。そんな中、過激な聖戦主義者が西洋文明そのものを否定する大義名分を持ってテロを実行している。
(M)