北でも「3度目の正直」は本当?


 北朝鮮朝鮮中央通信(KCNA)は9日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の水中発射実験に成功したと報じだが、米国や韓国から早速、「実験に成功しておらず、SLBMの開発レベルに過ぎない」という懐疑的な反応が聞かれた。そこで北は27日、SLBMの水中発射実験を映した動画を公開して、「それ見たことか」と胸を張った直後、今度は「その動画はユーチューブに掲載された米国のSLBM発射場面を編集したものだ」という声が上がってきた。

 韓国の聯合ニュースによると、「北朝鮮が公開した動画は、画面の構図や背景、ミサイルの様子などから、ユーチューブに掲載されている米のSLBM『トライデント1』の水中発射シーンと同様のものとみられる」と報じている。北がSLBM発射実験成功に拘るのは、「米国の核の傘を無効にし、米本土への直撃が可能となることで、米国の安全を脅かすことが可能となる」からだという。
 
 それにしても、北側が大成功と誇示する度に、米国からその真偽を疑う声が飛び出してくるのだが、そのパターンは今回も同じだ。想起してほしい。北は1998年8月、最初の試験衛星「光明星1号」を打ち上げ、宇宙軌道に乗せたと主張したが、同衛星から信号がキャッチできないこともあって、国際社会は「北朝鮮の初の人工衛星打ち上げ成功」説を否定した。そこで北は2009年、再び人工衛星「光明星2号」の打ち上げに成功したと表明し、宇宙から革命讃歌「金日成将軍の歌」や「金正日将軍の歌」が流れていると報じた。しかし、国際機関が北の人工衛星を必死に探したが、見つからなかった。人工衛星から発信される信号をキャッチできない場合、その人工衛星は墜落したか、軌道に乗らなかったことになる。

 北は国際社会の冷笑にも負けず、12年12月12日、銀河3号で光明星3号2号機を打ち上げ、衛星軌道への投入に成功し、ようやく同国初の人工衛星とした経緯がある(人工衛星の運用には失敗)。すなわち、北は、人工衛星打ち上げ成功宣言から14年後、本当に打ち上げに成功し、国際社会から認知を受けたわけだ(「北の若き独裁者と『人工衛星』の話」2014年10月17日参考)。

 北朝鮮は過去、3回、核実験を実施し、「核保有国」を宣言した(2006年10月、09年5月、そして13年2月の核実験)。核実験の場合、放射性物質が検出される。1回目は核実験2週間後、カナダの放射能監視所で北核実験による放射性物質(希ガス元素のキセノン133)が検出された。3回目も4週間後に放射性物質が検出されたから、「北が核実験を行った可能性がある」と一応受け取られた(2回目は発見されず)。

 しかし、北の核実験成功説に対して、欧米の科学者の中には依然、懐疑的な意見が強いのだ。ドイツ出身の物理学者は06年10月の北朝鮮の核実験直後、「核実験ではなく、通常TNT爆弾を利用した偽装実験の可能性が高い」と主張したが、同科学者は今でもその意見を変えていない。彼は机上の計算や偏見から言っているのではない。北朝鮮を何度も訪問し、同国の学者たちに授業をしてきた体験の持ち主だ。その彼曰く、「自分が知っている北朝鮮の科学水準では核兵器は製造できない」と断言する。

 人工衛星打ち上げ、核実験……本来、高度の科学技術知識とそれを支えるインフラが必要な実験で、北は少なくとも数回の実験を繰り返し、3度目で一応、国際社会から認知らしきものを手にしてきた。過去の例からみて、北がSLBM発射実験成功の認知を受けるまで少なくともあと2回の実験が必要となるわけだ。北でも「3度目の正直」は当てはまるのかもしれない。

 いずれにしても、SLBM発射実験成功報道に関連した北側の対応を見ていると、「1つの嘘を本当らしくするために、7つの嘘が必要となる」と述べた宗教改革者マルティン・ルターの言葉をどうしても思い出してしまう。

(ウィーン在住)