プーチン氏には「強さ」で対抗すべし
欧米諸国と旧ソ連・東欧共産圏が対峙していた冷戦時代、共産圏の盟主・ソ連(当時)が崩壊するとは予想できなかったことだ。それがモスクワにゴルバチョフ大統領が出現し、ペレストロイカ政策を提示してから数年後、ソ連はあっけなく崩壊した。
当時のレーガン米大統領は戦力防衛構想を積極的に推進し、ゴルバチョフ大統領に米国の軍事力の優位をはっきりと認識させたことが冷戦終焉の大きな契機となったといわれている。すなわち、ゴルバチョフ氏が共産主義社会の敗北を認識したというより、米国の軍事力の“強さ”にもはや対抗できないと悟った結果だった。米国の強さを誇示する政策が「悪魔の帝国」ソ連共産圏の崩壊をもたらしたわけだ。
なぜ、こんなことを書くかというと、 独週刊誌シュピーゲル最新号(2月14日号)がレオン・パネッタ元米国防長官とのインタビューを掲載しているが、パネッタ氏はその中で、「プーチン大統領が理解できるのは“強さ”だけだ。だから、彼を説得する唯一の道は欧米側の“強さ”を誇示することだ」と述べている。同元国防長官の発言を読んで、レーガン大統領時代の米国の“強さ”の外交政策を思い出したのだ。
そこでウクライナ紛争に目を移してみよう。メルケル独首相とオランド仏大統領は12日、ベラルーシの首都ミンスクでプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領と4首脳会談を開き、ウクライナ東部の停戦協定で合意したが、同合意は昨年9月のそれと同じ運命を余儀なくされている。ウクライナからの情報によると、親ロシア派武装勢力は17日、東部の要衝デバリツェボの大半を制圧するなど、軍事活動を継続、拡大している。
ところで、ウクライナ東部の親ロシア武装勢力が軍事活動を継続した17日、プーチン大統領はハンガリーを公式訪問している。オルバン首相は、プーチン大統領をクリミア半島併合後、レッドカーペットで歓迎した初の北大西洋条約機構(NATO)加盟国首脳となった。換言すれば、プーチン大統領は欧州連合(EU)とNATO加盟国内でロシア支持の声を拡大し、EU、NATO内の結束を崩すことに成功しているのだ。
ハンガリー国営通信MTIによると、プーチン大統領はラブロフ外相、ノバク・エネルギー相、ロシア国営天然ガス会社ガスプロムのミレル社長らを引き連れてブタペスト入りした。ロシアとハンガリー両国はハンガリー唯一のパクシュ原発に新しい2基の原子炉を増設することで合意済みだ。
EUが対ロシア制裁を実施して以来、ロシアと経済関係が深いEU諸国内では不協和音が聞かれる。特に、ロシア産ガスに依存する欧州では対ロシア制裁の強化・拡大には反発の声が強い。プーチン大統領が欧米の制裁に対して依然強硬姿勢を維持できる背景には、EU、NATO内の乱れがあるからだ。プーチン大統領が強いのではなく、EUが対ロシア政策で結束していないからだ。
パネッタ氏は、「欧州の地で新しい戦争が起きるかはプーチン氏の動向にかかっている。自分の体験からいえば、ロシアとは強い姿勢で交渉すべきだ。ロシアは敵が弱いと分かると徹底的にそれを利用する。NATOはロシア側に『ウクライナの安全は守る』という明確なシグナルを送るべきだ。欧州ミサイル防衛システムの建設案を再活性化すべきだ。そして欧米はウクライナに経済的、軍事的支援を拡大すべきだ」と主張し、「欧州諸国のロシア産原油・ガス依存を打破するために米国は原油、ガスを欧州に供給する案もある」と述べている
パネッタ氏の提案に対して、プーチン大統領はどのように対応してくるだろうか。ハッキリしている点は、EUが対ロシア政策で結束できない限り、プーチン大統領を説得することは “Mission: Impossible” ということだ。
(ウィーン在住)