4人はユダヤ人ゆえに殺された


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ウィーンの「イスラエル文化協会」会長オスカー・ドイチェ氏(ウィキぺディアから)

 武装した2人のイスラム過激派テロリストが7日、パリの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」本社を襲撃し、自動小銃を乱射し、編集長を含む10人のジャーナリストと、2人の警察官を殺害するというテロ事件が発生した。その直後、別の1人のテロリストがユダヤ系スーパーマーケットを襲撃し、4人のユダヤ人を殺害した、3人のテロリストは9日、治安部隊との衝突で射殺され、多くの死傷者を出した2つのテロ事件は幕を閉じた。

 パリ市民はテロ事件の直後、「Je suis Charlie」(私はシャルリー)という抗議プラカードなどを掲げ、「言論の自由」の擁護に立ち上がっている一方、オランド大統領は11日、世界から多くの首脳を招きパりで反テロ行進を挙行した。同国内務省の発表によると、1944年8月のパリ解放を上回る約370万人の国民が反テロ行進に参加したという。

 オーストリアのウィーンでも同日、約1万2000人の国民が参加し、反テロに連帯し、仏週刊紙の名前を記した紙を掲げて射殺された10人のジャーナリストを追悼し、反テロへの結束、言論の自由の堅持などを訴えた。

 その直後、オーストリア・ウィーンの「イスラエル文化協会」のオスカー・ドイチェ会長は「パリのジャーナリストたちはイスラム教の預言者ムハンマドを風刺したことで射殺されたが、殺された4人のユダヤ人はユダヤ人という理由だけで殺された」と指摘し、追悼集会で亡くなった4人のユダヤ人への言及が少なく、軽視されていると発言した。

 同会長の主張をもう少し説明する。4人のユダヤ人は仏週刊紙のようにイスラム教の預言者を冒涜したわけではない。たまたま、買物でユダヤ系商店にいただけだ。仏治安部隊に射殺されたアメディ・クリバリ容疑者(32)は店に入ると、「お前たちは皆ユダヤ人だ。ユダヤ人を全て殺す」と脅迫し、次々と射殺したという。文字通り、ユダヤ人であるという1点で殺害されたわけだ。

 仏風刺週刊紙の場合、イスラム教過激派から脅迫されていた。彼らはテロにあう危険を熟知していた。一方、ユダヤ人の場合、何をしようが、どこに住んでいようが、ユダヤ人である事実を隠すことはできない。イスラム過激派テロリストに遭遇する危険を回避できないし、防ぐ手段も限られている。同会長の発言はその“もどかしさ”を吐露したものだろう。

 パリの反テロ行進には最前列にイスラエルのネタニヤフ首相が並んで行進に参加していた。イスラエル側の要請を受け、フランス国内の700カ所以上のユダヤ教関連施設、学校、シナゴークへの警備を強化している。ネタニヤフ首相は10日、「フランスからのユダヤ人の移住を歓迎する」と述べている。フランスではここ数年、ユダヤ系住民やシナゴークが襲撃されるなど、反ユダヤ主義が席巻している。昨年1年間だけで7000人余りのユダヤ人が母国イスラエルに移住したという。

 参考までに指摘するが、「仏週刊紙テロ事件」と「ユダヤ系商店襲撃テロ事件」がほぼ同時期に発生したため、両テロ事件は密接な関係があると推測されているが、西側テロ専門家によると、前者のテロ容疑者はイエメンを拠点とする「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の支援を受け、後者は「イスラム国」(IS)の支持があったとみている。

 実際、AQAPは14日、仏週刊紙テロ事件の犯行声明を出した。一方、アメディ・クリバリ容疑者自身は犯行中、ISから支援を受けていることを示唆している。同時期に起きたことから「アルカイダとISがテロ組織としてその覇権争いをしているのではないか」といった憶測報道もあるほどだ。

 ここでは、ユダヤ人ゆえに殺害された4人に対しても心から哀悼の意を表したい

(ウィーン在住)