変化するフランスの家族観


地球だより

 2001年に公開されたフランス映画「タンギー」はパラサイト症候群を題材にした映画だった。生まれたばかりのタンギーに向かって両親は、「もし居たかったら、いつまでも家に居ていいのよ」と語り掛けたのだが、それが現実になって戸惑うという話だった。

 30歳になっても両親の家を出て行かない若者が増え続けているという。無論、長期不況も大きな原因だが、経済的なことを考えれば、自立するメリットよりも親元から出るデメリットの方が大きいということもある。

 映画「タンギー」では親のクレジットカードは使い込み、ガールフレンドを泊めたりもしていた。

 親たちは、いわゆる1968年世代(学生運動世代)。親に反抗し、真っ先に自立していった世代なので子供の行動がまったく理解できない。赤ちゃんの時はいつまでも居てほしいと言ったものの、今ではあの手この手でどうやって家から子供を追い出すか画策するというコメディー映画だった。

 それから10年以上が経ち、今度は実家に帰って来る中年の子供たちが話題になっている。理由は失業や離婚が圧倒的に多いが、親もむげに断れないので受け入れてしまう例が多い。これらの現象は、親は超リベラルな個人主義者で自分の生活がたとえ親族によってでも邪魔されたくない世代で、子供は逆にいつまでも親を頼っているという話だ。

 2005年の夏、猛暑がフランスを襲い、1万5000人に達する高齢者が熱中症などで亡くなった。その時、遺体をめぐり、世論は大きく揺れた。

 というのも多くの遺族(子供たち)が親の遺体引き取りをバカンスの後にしてほしいと言い、中には受け取り拒否の子供もいたということだった。その子供たちこそ学生運動世代だった。

 ところが時代は変わり、反伝統的家族主義からの揺り戻しか、家族依存症とも言えそうな現象が起きている。無論、カトリック的家父長制度に戻っているわけではないが、最後に頼れるのは家族だけという認識は強くなる一方だ。

 それに政府は、少子化だけは極力避けたいわけだから家族志向を後押ししている。

(M)