「新冷戦」時代に直面、2014年EU回顧と展望

 欧州にとって今年は歴史的節目の年だった。第1次世界大戦勃発から100周年、ベルリンの壁崩壊から25周年という区切りを迎えたが、新たな次元での諸問題に直面することになった。来年は第2次世界大戦終結70周年に当たり、欧州連合(EU)という戦後の平和構築プロジェクトの真価が問われることになろう。(ロンドン・行天慎二)

経済停滞から成長模索

増加する移民・難民

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11月25日、仏ストラスブールの欧州議会で演説するフランシスコ・ローマ法王(AFP=時事)

 欧州は、ロシアとの「新冷戦」関係、経済停滞の打破、移民・難民の増加、という三つの大きな問題を抱えたまま越年しようとしている。第1次、2次という二つの世界大戦を経た欧州でドイツとフランスが和解し、英国を含めて欧州主要国が欧州統合づくりに参加してきた戦後の平和構築プロジェクトは、共産主義によって分断されていた東欧諸国の解放にもつながった。ベルリンの壁崩壊後に順調に進んでいたEUの東方拡大は、昨年末から深刻化したウクライナ紛争を契機に今年はロシアとの「新冷戦」の事態にまで発展。ロシアは今年3月に軍事力を背景にウクライナ領のクリミア半島を併合した後、ロシア系住民が多いウクライナ東部へも介入し続けている。ウクライナの主権侵害を続けるロシアに対してEUと米国は対決姿勢を示し、経済制裁に出た。

 ロシアのプーチン大統領は、旧ソ連邦に属していたウクライナ、グルジアなどへのEU拡大は安全保障上からロシアへの脅威だとみなし、軍事的行動も辞さない構えだ。バルト3国、スウェーデン、フィンランド、デンマークなどのバルト海沿岸諸国上空でロシア軍航空機による領空侵犯事件が急増しており、冷戦時のような軍事的緊張感が再び起きている。欧州は「新冷戦」時代に直面した。

 今月18日開かれたEUサミットの共同声明の中で、「新冷戦」の火種であるウクライナ問題に関して、ウクライナへの経済支援を継続するとともに、ロシアによる主権侵害に対し「クリミアとセバストポリの違法な併合は認めないとの政策がさらに強化された。EUはこの方針を取り続ける。欧州理事会は必要ならばさらなる処置を取る用意がある」と記した。ロシアへの「新冷戦」態勢が来年も続くことになろう。

 EU経済は今年も停滞したままだ。2008年の金融危機とそれに続く欧州債務危機で、EU各国は金融引き締めと財政再建を最優先させた緊縮財政政策を採ってきたため、経済成長できないでいる。EU28カ国全体で実質国内総生産(GDP)成長率は昨年が0・0%で、今年は1・3%、来年は1・5%の予想でなお低い。とりわけ、ユーロ圏は昨年がマイナス0・5%、今年0・8%で、来年は1・1%の予想で暗い見通しだ。中でも主要国のイタリアが昨年マイナス1・9%、今年マイナス0・4%と低迷。EU全体の失業率も今年10・3%で、来年も10・0%の予想であり高いままだ。特に今年、ギリシャ26・8%、スペイン24・8%、ポルトガル14・5%などでの高失業率は深刻であり、雇用創出につながる経済成長が最重要課題になっている。

 EUサミットで、トゥスク新EU大統領は「戦略的プロジェクトに公的資金と民間資金を注入するのが欧州経済回復をスピードアップする上で最善だ」と述べて、ユンケル欧州委員長が11月に提案した3150億ユーロ規模の「戦略的投資基金」を来年6月までにつくり、15~17年に実施する方針であることを明言した。この他、来年EUは資本市場の統合化、エネルギーのネットワーク化、通信分野でのデジタル単一市場の推進、EU米国間の包括的貿易投資協定(TTIP)の締結などに向けて、経済改革を行う方針だ。

 来年1月1日にリトアニアが新たにユーロ加盟国となる。しかし、ユーロ圏経済の停滞のため単一通貨ユーロの存続が危ぶまれている。ドイツによる財政負担とユーロ圏での財政統合化が進まなければユーロ崩壊の危険性が常にある。さらに、欧州経済は若年層の高失業問題(イタリアでは43・3%)、非正規雇用の低賃金労働増加による貧富格差の拡大など、多くの問題を抱えている。

 EUは域外の中東・アフリカの紛争国からの移民や難民の増加、それに域内での東欧移民問題を抱えている。EUへの域外からの移民数は12年に約170万人に上り、主な移民先はドイツ (59万2200人)、英国 (49万8000人)、イタリア(35万800人)、フランス(32万7400人)などだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、内戦とイスラム過激派から逃れてシリアやイラク、アフリカから今年地中海を渡って不法に欧州に入った移民や難民は20万人以上で、11年の約3倍になった。欧州に渡ろうとして地中海で死亡した移民・難民の数も3419人に上り、大きなニュースになった。

 これら移民・難民の中にはイスラム教徒も多く、欧州内にイスラム過激派が浸透するのを阻止するため極右勢力がイスラム教徒排斥運動を行っている。フランスやオランダでは反イスラムの動きが活発だ。今日最大の移民受け入れ国になっているドイツでも、ドレスデンで10月から毎月曜日に反イスラムの抗議集会が開かれ、今月22日には1万7500人が集まった。移民に寛容なスウェーデンでも同様な動きが出ている。他方、英国では東欧諸国からのEU移民増加に反対する右派政党、英独立党が伸張しており、EU統合化に背を向けている。

 高齢化する欧州にとって移民問題は避けて通れない問題だが、フランシスコ・ローマ法王は11月25日、欧州議会でのスピーチで「もはや繁殖力と活気がない、おばあさんになった欧州」は、自己利益の動機からではなく、人間尊厳の価値観に基づいて移民を受け入れるべきだと訴えた。欧州の未来は移民の活力なしには成り立たない状況に至っている。