金正恩氏は“現代の奴隷市場”支配人


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金正恩第1書記時代の海外労働の流れ図

  北朝鮮の韓国向け宣伝サイト「わが民族同士」によると、北最高人民会議常任委員会は先月20日、「開城工業地区労働規定」条文を改正し、従業員の月間最低労賃50ドル制限を撤廃し、毎年、前年度の最低労賃の5%以上の賃金引き上げを可能にする」(韓国中央日報日本語電子版)という。

 金正恩政権は今月17日で3年目を迎えるが、恒常的な外貨不足に苦悩している。金正恩氏が「軍隊の兵士に肉を食べさせたい」と嘆いたという記事を読んだ。一国の為政者が国を守る兵士の食事を心配しなければならないほど、同国は内外共に行き詰ってきている。

 金正恩氏の実妹・金与正が党幹部に就任したことが判明したが、親族関係者が権力機構に入るということは、金正恩氏の政治的基盤が安定しているからではなく、脆弱だからだ。金正恩氏が叔父・張成沢を処刑した後、信頼できる人間が最も近い親族以外にいないことを物語っている。父親・金正日総書記は晩年、自身の健康の衰えを感じはじめた頃、親族関係者を周りに集めようと腐心したことがあった。金総書記は海外資金問題では親族関係者以外、もはや誰も信用していないといわれたほどだ。金正恩氏の場合も同じ現象だが、政権継承からまだ3年しか経過していないのだ。

 ところで、最近、「北朝鮮の労働者海外派遣ビジネス」に関する報告書を入手した。2012年12月発行の60頁余りの資料だ。内容は金正恩氏の労働者海外派遣ビジネスの実態をカバーしている。それによると、金正恩時代に入って外貨稼ぎのため自国労働者を海外に派遣するビジネスが一層活発化しているというのだ。

 報告書は北の海外労働者にインタビューする形式で記述されている。派遣先は中国、ロシア、サウジアラビア、クウェ―ト、アラブ首長国連邦など中東諸国、そしてアフリカ諸国だ。最近は東南アジア諸国にも派遣してきた。労働者が海外に派遣される場合、既婚者で少なくとも2人以上の子供がいる者に制限されている。すなわち、シングルの国民は海外に派遣されないのだ。

 北労働者の話によると、「労働党にコネがある者は海外に派遣される。党や海外労働者派遣関係者への賄賂は日常茶飯事だ」という。だから、海外に出稼ぎができる国民は低層階級ではなく、中産階級以上が多い。金とコネのない労働者は海外へ出稼ぎにも出られない。海外に派遣が決定した場合、関係当局から思想教育を受ける、などの条件をクリアしなければならない。

 海外で働く北労働者総数は約6万人から6万5000人、約40カ国に派遣されている。労働者海外派遣ビジネスからの総収入は年間1億5000千万ドルから2億3000万ドルと見られている。労働職種は建設業、レストラン、鉱山、森林業、道路建設などが主だ。例えば、中国では約7000人から8000人の北労働者がレストランで働いている。また、各省が外貨獲得のため、人材を派遣する場合も増えている。例えば、厚生省が医者を海外に派遣し、軍・科学関係省はミャンマーに地下核関連施設建設のため核科学者を派遣し外貨を得ている、といった具合だ。

 金正日総書記時代は石炭や地下資源を輸出して外貨を稼いだが、総書記の死後、正恩氏は労働者の海外派遣ビジネスを拡大している。脱北の恐れを警戒しているが、外貨獲得が急務だからだ。

 金第1書記は政権就任後、綾羅人民遊園地を完成、平壌中央動物園の改修、江原道元山地区で馬息嶺スキー場を造るなど、国民生活と直接関係がない遊戯用インフラの整備に貴重な外貨を投入してきた。金第1書記の祖父・金日成主席は「国民が白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにする」と約束したが、果たせずに終わった。正恩氏は遅まきながら、「軍の兵士に肉を食べさせたい」と述べたというのだ。

 北の海外労働者の平均手取りは月100ドル。派遣先やその職種によっては条件はもっと悪い。給料の90%以上が労働斡旋側や中間業者の手に渡る。にもかかわらず、多くの北の国民はその僅かな外貨を得たいために海外労働を希望する。

 2、3年間、海外で働いてやっとTV1台を買って帰国できればいいほうだといわれる。北の海外派遣労働者は“現代版の奴隷”だ。金正恩氏はその現代の奴隷の市場支配人だ。

(ウィーン在住)