金正恩氏、お元気ですか?
アルプスの小国オーストリアのメディアでも、このところ北朝鮮の近未来とそれに関連して金正恩第1書記の健康問題が報じられない日がないほどだ。同国の高級紙プレッセは8日、正恩氏の上半身写真を大きく掲載し、同第1書記の行方を追っていた。極東の朝鮮半島の政情に疎いウィーンの読者も「北朝鮮で今、不穏な動きが進行中だ」といった印象を受けたはずだ。
そこで北情勢を理解するため、先月3日から現在まで約40日間の北の動向を整理してみた。
<北の動向>
正恩氏は先月3日以来、公の場に出てきていない。最高指導者の不在期間が長くなってきた。同国の朝鮮中央テレビは先月25日夜、「金第1書記が不自由な体」であることを明らかにし、正恩氏が足を引きづりながら歩く姿を鮮明に放映した。国家最高指導者の健康問題を公で公表するということは異例中の異例だ。正恩氏は今月5日、平壌で開かれた最高人民会議第13期第2回会議に欠席。今月10日の労働党創建69周年記念日にも姿を見せていない。異常ではないが、通常とはいえない。
その一方、金第1書記の最側近の3人、朝鮮人民軍の黄炳瑞総政治局長、国家体育指導委員長の崔龍海党書記、そして金養建党統一戦線部長の高官が今月4日、仁川アジア大会閉会式出席のため韓国を訪問。3人は文字通り、金第1書記に続く序列2、3、4位の高官だ。3人は大統領府の金寛鎮国家安保室長らと会談し、南北高官級協議の再開で合意して帰国した。その3日後の7日、北朝鮮の警備艇1隻が黄海の北方限界線(NLL)を越えて南側海域に侵入し、韓国艦艇との間で“射撃戦”が繰り広げれらた(複数の韓国メディア報道)。
<金正恩氏の健康問題について>
韓国の韓民求国防相は7日、国会の国防委員会で、健康悪化説が出ている北朝鮮の金正恩第1書記の所在について「平壌北方の某所にいる」との見方を明らかにした。国防省傘下の情報機関の「信頼できる情報」としている(共同通信10月7日)。
北朝鮮の徐世平駐ジュネーブ国際機関代表部大使は2日、ロイター通信とのインタビューで、金正恩第1書記の健康について「でっち上げのうわさだ」と否定している。ちなみに、訪韓した金養建当統一戦線部長は「健康に問題ない」と韓国側に答えたという(朝鮮日報10日日本語電子版)。
<メディアの憶測記事>
中国反体制派海外メディアの「大紀元」日本語版は今月8日、「北朝鮮でクーデターが発生した。現在、金正恩第1書記は軟禁されている」という、うわさが広まる中、中国人ネットユーザーが8日、北京で金正恩第1書記専用機を目撃した情報を写真付きでネットに投稿した」と、写真付きで報じた。
なお、イランのメディアは正恩氏が脳梗塞の前段階の症状と報じ、歩行ばかりか排尿も困難と報じている。
<当方の考え>
軍クーデター説は完全には排除できないが、少々無理がある。軍クーデターが発生したとすれば、党ナンバー2、3、4の最側近が国を留守にして、のんびりと訪韓できない。3人に訪韓を命じることができる唯一の人物は、病床にあったとしても北では目下、金正恩氏しかいないからだ。3人のうち、1人でも平壌に留まっていたとすれば、話は少し変わってくる。「3人の最側近が一緒に訪韓した」という事実が軍クーデター説を否定する。正恩氏が意図的に3人に訪韓を命じたとすれば、独裁者として合格点を取れるだろう。
正恩氏の健康状況については、外部から正しい情報を入手することは無理。ただし、「不自由な体」であることはほぼ間違いないだろう。韓国情報機関は米国家安全保障局(NSA)と密接に連携し、北高官たちの会話盗聴など情報収集に乗り出しているから、北の内部情報をかなり掴んでいるはずだ。その意味で韓民求国防相の7日の発言は信頼できるだろう。すなわち、正恩氏は療養所で治療を受けている可能性が高い。実妹・金汝貞の台頭は、正恩氏の健康が優れず、職務遂行で信頼できる人間(親族)の手助けが必要となってきたことを示唆している。
(ウィーン在住)