死者は手術室の壁の絵を見ていた
今年のノーベル物理学賞を受賞された3人の日本人科学者の一人、名古屋大学の天野浩教授は「人のために役立ちたかった」と述べておられたのがとても印象的だった。青色発光ダイオード(LED)の開発で多くの人類が少量の電力でより明るい光を享受できるようになったわけで、「人類の幸せ」に貢献されたことは間違いない。iPS細胞の生みの親で2012年のノーベル生理医学賞を受賞された山中伸弥・京都大教授も「早く難病患者の治療に役立ちたい」と語っておられた。山中教授、天野教授ら世界的な実績を残された科学者は同じような思いが強いのだろう。
ところで、「人類の幸せに貢献」するという点で興味深い記事を最近読んだ。ウィーンの総合病院AKHの神経学者が英国人医者と共同で過去4年間、心臓病患者2000人を研究し、医学的に死亡宣言された後、再び生き帰った患者の臨死体験(Near Death Experience)を集中的に調査した。
それによると、死から蘇った患者の40%が死を宣言された直後、実験として手術室の壁に飾られた絵を詳細に覚えていた、というのだ。すなわち、患者は医学的に死を宣言された後(体外離脱)、壁に貼られた手術室の絵を見ていたのだ。ある患者は「暗い部屋に入ろうとした時、行くなという妻の声を聞いて戻り、目を覚ました」と話している。
神経学者は「死の世界が存在することを実験を通じて証明したかった」と説明している。世界各地で臨死体験に関連した本が出版されるなど、臨死体験に関する関心は高まっている。当方は最近、「なぜ、君は死を急ぐのか」(2014年9月10日参考)というコラムの中で人生回顧(ライフ・レビュー)現象を紹介した。いずれにしても、ウィーンの神経学者は実験を通じて「死の世界」の存在を証明しようとした野心的な試みだった。
「死の世界」が存在し、人間が肉体生活を終えた後も生命が続くことが証明できれば、ノーベル賞級の発見だろう。天野教授ではないが、「人のために役立つ」発見となる。唯物論的世界観の教育を受けてきた現代人にとって、「死後の世界」の存在はお伽噺と感じる人が多いが、それが実験を通じて「死後の世界」の存在が明らかになれば、従来の唯物的世界観、人生観、人間観は180度変わることは間違いないからだ。
人は生き方を変えざるを得なくなる。永遠の世界が存在し、その世界は愛の法則によって運営されていると分かったならば、利己的な人生を送ることができなくなる。世界の全ての人が天野教授のように「ために生きたい」という衝動を強く感じるだろう。そして死が永遠の別れ(無に帰す)ではなく、新しい世界への出発だと分かれば、愛する人との死別はもはや悲しくなくなる。おとぎ話ではない。世界の最先端を行く科学者たちが「死後の世界」の存在を証明するために努力しているのだ。
(ウィーン在住)