聖職者の性犯罪で600件の告発
ローマ・カトリック教会は本当に変わるだろうか。バチカン法王庁総務局長代理のアンジェロ・べッチウ大司教はイタリア日刊紙イル・メサゲロとのインタビューの中で「昨年1年間、聖職者に対する未成年者への性的虐待容疑に関連した告発件数は600件だった」と語ったという記事を読んだ時、そのような思いが湧いてきた。
バチカンの駐ドミニカ大使だったポーランド出身のヨゼフ・べゾロフスキー大司教(65)は大使就任中、7人の未成年者に対して性的虐待を繰り返したということで、バチカンから自宅監禁を言い渡されたというニュースが流れたばかりだ。同大司教は6月、教理省から聖職を剥奪されている。
バチカン放送独語電子版によると、2011、12年の2年間で384人の神父たちが未成年者への性的虐待で聖職を剥奪されている。聖職剥奪は教会法では破門に次いで重い刑罰だ。
南米初のローマ法王フランシスコは聖職者の性犯罪に対しては前法王べネディクト16世と同様、‘ゼロ寛容‘の政策を継承してきた。バチカン大使、大司教を務めた高位聖職者を自宅監禁するという対応は昔なら考えられなかったことだ。その点、評価されるが、聖職者の性犯罪への対処療法の感が強く、性犯罪を誘発する原因が何かについての考察を意図的に避けている、といった印象を受ける。換言すれば、聖職者の独身制廃止について、フランシスコ法王は控えめな発言に終始しているのだ。
フランシスコ法王はバチカン改革の見通しについて聞かれる度に、「私は枢機卿たちの意見を聞きたい」と繰り返し強調し、高位聖職者のコンセンサスに期待していることを度々示唆してきた。民主的なプロセスだが、そのようなやり方では12億人の信者を有するローマ・カトリック教会の刷新は覚束ないという懸念を感じるのだ。換言すれば、トップダウン型の指導力が求められているのではないか。
南米法王は信者との直接の接触、スキンシップを大切にする庶民派の法王ということで教会内外で高い人気を誇っているが、そのローマ法王に教会の抜本的改革が実施できるだろうかという不安を感じるのは当方だけではないだろう。
多数の信者たちは聖職者の独身制廃止を支持し、離婚・再婚者への聖体拝領を求めている。その一方、高位聖職者、バチカン内では是非に分かれている。唯一決断できるローマ法王がコンセンサス重視を貫くとすれば、教会の改革は何も実施できなくなってしまう。
フランシスコ法王は来月5日から19日まで特別シノドス(世界司教会議)を開催する。「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」という標語を掲げた同シノドスには世界の司教会議議長、高位聖職者、専門家、学者らが参加し、家庭問題を主要テーマとして話し合う。
同シノドスの焦点の一つは離婚・再婚者への聖体拝領を認めるかだ。このコラム欄でも指摘したが、この問題では高位聖職者の意見は2分化している(「法王の狙いは神の祝福の大衆化?」2014年9月23日参考)。
聖職者の独身制の廃止、離婚・再婚者への聖体拝領問題など厄介なテーマについて、フランシスコ法王は決断できるだろうか。全てから愛される法王に留まろうとすれば、決定を先延ばしするだろう。そしてフランシスコ法王にその兆候が見られるのだ。
(ウィーン在住)