再開発で消えた人情横丁ー 韓国から


地球だより

 韓国版新幹線「KTX」の発着駅もあるソウル市内の再開発地区に移転してきた新聞社を知人の案内で見学させてもらった。ここは筆者が十数年前、特派員生活をスタートさせた時に社内に事務所を間借りした縁もあり、古い付き合いがある。

 もともとこの地区に社屋を構えていたが、その後、引っ越しを繰り返し、このほど約10年ぶりに古巣に戻ってきた。編集局社員の事務所がある地上34階からの眺めは360度パノラマビュー。休憩室の窓際に座りコーヒーを飲んでみたが、ホテルの最上階ラウンジにいるような居心地の良さだ。

 だが、下界を見て驚いた。再開発で駅周辺は昔の面影をほとんどとどめていなかった。レンガ造りの古びた雑居ビルや瓦ぶき屋根の飲食店街、「哲学館」と呼ばれる占いの館やちょっと怪しい雰囲気の床屋など、何十年もあった街並みは消え去り、ここで生計を立てていた人たちの姿はもうない。

 「街の発展が本当にいいんだか…」と知人は呟(つぶや)いたが、全く同感だった。昼時、歪んだ鍋に入った熱々のキムチ鍋を運んで来るたびにきまって「まだ熱いですよ~」と言った店の娘さん、冬の夜、仕事帰りに通り掛かった街角で目にした、床暖房で使用中のボイラーの煙突から出る煙と薄暗い黄色電灯が醸し出す佇(たたず)まいなど、懐かしい光景が思い出された。

 古き良き韓国人情横丁がどんどんなくなっていくのは、ちょっぴり寂しい気がする。

(U)