芸術分野にも及ぶ受験競争ー韓国から


地球だより

 あまり知られていないが、韓国人はアート好きだ。経済的ゆとりができたことが大きいと言われる。本来は「芸術の秋」を楽しむこの時期だが、今年はコロナ禍で展示会が相次ぎ中止に追い込まれた。それでも対面を避ける工夫がなされ、ある企業では従業員の家族に自宅で作品を観覧した気分を味わえるオンラインサービスを提供し、話題になった。

 アートへの関心の高さは、当然ながら芸術分野の仕事に就くことへの情熱にもつながっている。大学進学率が高い韓国では美術系学部も入試の倍率が高く、専門予備校はそこを目指す受験生たちでどこもいっぱいだ。

 だが、そこは何といっても受かるためのテクニック伝授が最優先される。知り合いの娘さんは、まだ描いている途中の絵を、講師からいきなり「こうした方がいい」と言って修正され、やる気を無くしたことがあったという。そこに通う受験生たちの出来上がった絵を見ると、どれも同じでビックリしたそうだ。

 娘さんは予備校を辞め、近所で細々と絵を教えているおばあさんの塾に通い始めた。おばあさんは絵が完成するまで横で黙って見ているだけ。その代わり同じ絵を自分で描いて見せ、どこがどう違うかを考えさせたという。

 娘さんは俄然(がぜん)やる気を出し、海外留学後、専門を生かす職場で活躍している。大学合格者の大量輩出とは無縁だったが、おばあさんは確かに芸術とは何かを考えさせてくれた、と娘さんは語ってくれた。

(U)