めぐみさんの義母の思い出-韓国から


地球だより

 こちらでは結婚した両家の親同士を「サドン」と呼ぶ。一昔前までは年齢に関係なく嫁の親が婿の親に気を遣うのが普通だったが、最近は友達同士のように親しくなって、一緒に旅行に行くことも珍しくなくなった。

 ただ、それでも財力に格差があると、どうしても「ある」方が「ない」方より格上で、子供たちの新婚生活や両家が関わる行事などでは発言権を持っている。こんなとき、「ない」方はストレスがたまるものだ。

 北朝鮮に拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=の父、滋さんが先日亡くなった時、滋さんが「サドン」に会うため韓国を訪問した時のことを思い出した。面会したのは高校生の時に北朝鮮に拉致され、向こうでめぐみさんと結婚した金英男さんの母、崔桂月さん。

 当時、二人の出会いを取材したが、子供の消息が掴めないまま途方もない月日が過ぎ去っていたのに、同じ境遇の者同士、ある種の連帯感が滲み出ていたのを覚えている。

 滋さんが通訳を介し「英男さんがめぐみの夫であると分かり、非常に嬉しい」と伝えると、崔さんはハンカチで目頭を押さえた。国境を越えた、言葉も通じない「サドン」同士ではあったが、必ず子供たちを救い出すという執念で結ばれた固い絆もあった。

 一昨年に崔さんは亡くなり、滋さんも世を去ったが、生前のほんのわずかな二人の交流に多くの人が感銘を受けたことは間違いない。
(U)