比国家警察長官が辞任

上院調査で汚職疑惑が浮上

 フィリピンで警官による違法薬物の横流しをめぐり、関与疑惑が浮上していたアルバヤルデ国家警察長官が辞任した。違法薬物の取り締まりで、先導役を果たしていたアルバヤルデ氏の疑惑を受けての辞任は、ドゥテルテ大統領が推進する麻薬戦争にとって大きな打撃となりそうだ。
(マニラ・福島純一)

大統領の麻薬戦争に打撃

 フィリピンで「ニンジャ警官(ninja cops)」と呼ばれるのは、隠密捜査を行う刑事のことではなく、警察組織内で違法薬物の横流しなどの汚職に手を染める警官のことだ。この場合、「ニンジャ」は悪者の忍者に違いない。このほど上院の調査委員会で、いわゆる「ニンジャ警官」をめぐってアルバヤルデ氏が問題を起こした警官の処分をめぐり便宜を図っていた疑惑が浮上した。

アルバヤルデ国家警察長官

辞任したアルバヤルデ国家警察長官(フィリピン国家警察HPより)

 疑惑の発端は2013年にさかのぼる。当時パンパンガ州の警察本部長だったアルバヤルデ氏の部下13人が、同州メキシコ町で押収した約200キロの麻薬を過少報告して160キロを横流しした上、逮捕した容疑者を5500万ペソ(約1億1700万円)の現金と引き換えに見逃したという問題が発覚した。

 関与した13人の警官は解職処分となる見通しだったが、16年に首都圏警察本部長だったアルバヤルデ氏が便宜を図って降格処分にとどまった。その後、問題の警官たちはミンダナオ島に配属されたという。

 上院に召喚されたアルバヤルデ氏は、ゴードン上院議員などから激しい追及を受け、辞任を求める声が高まっていた。アルバヤルデ氏は潔白を主張していたが、辞任圧力に屈して11月8日の定年退職日を待たずに今月14日に辞任を表明した。

 国家警察の犯罪捜査グループは21日、横流しに関与した13人の警官とアルバヤルデ氏を書類送検した。ゴードン上院議員は、「辞任は罪の免除を意味しない」と述べ、さらに疑惑を追及する構えを見せている。

 一方、パネロ大統領府報道官は、「有罪と証明されるまでは無罪」と述べ、麻薬から利益を得ていたという明確な証拠を示すべきだと主張し、アルバヤルデ氏を擁護した。

 アルバヤルデ氏はドゥテルテ政権下の18年4月に国家警察長官に就任し、難航する麻薬戦争の先導役を担ってきた。長官に就任する前に首都圏警察本部長を務めていた当時は、各地の警察署で自ら抜き打ち視察を繰り返し、居眠りなどの職務怠慢を厳しく指導するなど、規律を重んじる人物として知られていた。

 今回の国家警察長官の辞任問題で、警察組織の腐敗が麻薬戦争の大きな障壁として立ちはだかっていることが改めて明白となった。麻薬戦争の名の下、数千人と言われる容疑者が殺害される一方、一部の警官はその立場を利用して密売人と癒着し、押収した麻薬を「リサイクル」しているという構図だ。

 麻薬戦争をめぐっては、以前にも警察組織の腐敗問題が浮上し、激怒したドゥテルテ氏によって警察が麻薬取り締まりから外されたことがあった。しかし麻薬取締局だけでは人員が足りず、取り締まりに警察の復帰が認められた経緯がある。

 警官の給与を倍増させるなど、ドゥテルテ氏は思い切った政策で警察組織の浄化を試みてきたが、腐敗の根は想像以上に深い。一部の国会議員からは今回の疑惑を受け、警官の昇進に関してより厳格な審査が必要だとの意見も出ている。

 ドゥテルテ氏は大統領就任当初、麻薬問題を6カ月で終結させると豪語していたが、今では退任するまでの課題として先延ばしされている。違法薬物の取り締まりで先導役を果たしてきたアルバヤルデ氏の辞任で、麻薬戦争の終結はさらに遠のきそうだ。