南シナ海踏まえ安保協力、ドゥテルテ比大統領が3度目の訪日

 フィリピンのドゥテルテ大統領が5月28日から、就任して3度目となる訪日を行い、安部晋三首相との首脳会談で防衛協力などの分野について話し合った。ドゥテルテ氏はまた、日本企業に対しても積極的にフィリピンへの誘致を働き掛け、経済分野での発展にさらなる弾みをつけたい考えだ。さらに天皇皇后両陛下を招待し、フィリピン訪問の実現に期待を寄せた。
(マニラ・福島純一)

天皇陛下の訪比を招請

 5月31日に安倍首相と首脳会談を行ったドゥテルテ氏は、日本は「兄弟より親しい友人」と述べ、両国の親密さ強調した。加えて「急速な発展を遂げている地域における、平和や法の支配に欠かせない重要な同盟国」との表現で日本との結束を確認した。その上で、両国は「共通の価値観の上に構築された模範的なパートナーシップを持っている」として、今後もあらゆる分野で協力関係を推進していきたい考えを示した。

ロドリゴ・ドゥテルテ大統領

講演するフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領=5月31日、東京都内のホテル(森啓造撮影)

 一方、安倍首相はフィリピンの中間選挙で圧勝を収めたドゥテルテ氏に祝意を述べるとともに、バンサモロ自治政府の発足で本格的に動きだしたミンダナオ和平をめぐり、今後も進捗状況に応じて積極的に支援を行っていく意思を表明した。

 また両首脳は、中国の南シナ海における領有権の主張、および埋め立てた人工島に軍事施設の建設を進めるなどの動向を踏まえ、安全保障の分野において共同訓練など連携を強化することで一致した。

 ドゥテルテ氏は、訪日中に行った講演で「私は中国を愛していて、中国に少し助けられている。しかし、海域全体の領有権を主張するのは正しいことなのかと問いたい」と述べ、中国の南シナ海における覇権主義を牽制した。また昨年、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が作成に向けて合意した「南シナ海行動規範」に関しては、「誰も推進していない」と指摘し、2021年までに予定されている策定が遅れていることを認めた。

 さらにドゥテルテ氏は、放射性物質による汚染を理由に輸入を禁じていた福島県産水産物への規制を解除したことを伝える一方、フィリピン産のバナナなどの果物の日本向け輸出の拡大に向けて関税の引き下げを求めた。

 5月29日に行われたビジネスフォーラムで行った講演でドゥテルテ氏は、集まった投資家や企業に対し、「汚職がないことを約束する」「私に直接連絡をくれれば、昼夜を問わず24時間体制で問題を解決する準備が整っている」などと述べ、フィリピンが安定したビジネス環境であることを強調。積極的な投資を呼び掛けた。

 今回の大統領訪日でフィリピン政府は、日本企業と結んだ26項目のビジネス協定により、2888億ペソ(約6500億円)の経済効果と8万人以上の雇用が得られると期待している。

 フィリピンではドゥテルテ政権が推進するインフラ整備計画「ビルド、ビルド、ビルド」が進められており、日本企業の参加でさらに弾みをつけたい考えだ。すでにマニラ首都圏では、日本の政府開発援助(ODA)で地下鉄建設が着工し、社会問題と化している道路の交通渋滞を解消する切り札として大きな期待を集めている。

 また、大統領府の報道官は、ドゥテルテ氏が安倍首相との会談で天皇皇后両陛下をフィリピンに招待したいとの意向を伝えたことを明らかにした。ドゥテルテ氏は、「訪問が実現すればわが国にとって大きな名誉になる」と述べたという。