「一帯一路」協力姿勢に警鐘
ゲスト 筑波大学名誉教授 遠藤誉氏
筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は2月28日公開のインターネット番組「パトリオットTV」に出演し、中国の国家戦略の中心である「中国製造2025」について、田村重信氏(拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー)と対談した。
独裁中国のハイテク支配 非常に恐ろしい
宇宙から支配する野心も
田村 「中国製造2025」とは、そもそも何なのか。
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パトリオットTVで対談する遠藤誉氏(左)と田村重信氏
えんどう・ほまれ 1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃』『習近平VSトランプ 世界を制するのは誰か』『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』など多数。
遠藤 「中国製造2025」は、基本的には半導体と宇宙開発によって世界を制覇するということ。25年までに半導体の70%を自給自足にして、49年には米国を追い抜くとしている。宇宙開発も、22年に中国独自の宇宙ステーションを打ち上げる計画で動いている。米中貿易摩擦の根幹には中国製造2025があって、貿易問題はあくまで皮相的なものだ。
田村 どこが衝撃的で、その実現の可能性は。
遠藤 まず半導体について、09年には世界のトップ50社の中に中国企業は1社しか入っていなかったが、17年にはトップ10の中に2社入るようになった。その一つであるハイシリコンは、ファーウェイ専属の半導体メーカーだ。今は1位のクアルコム(米国)とほとんど同等のレベルで競い合っている。
また中国は1月に、月の裏側の軟着陸に成功した。地球からの信号は月の裏側に届かないので、中継の通信衛星が要る。中国はその中継衛星を宇宙空間でピタッと止めることに成功した。米国もこの衛星を使用させてほしいと言い、その意味で宇宙空間における米中の力関係が少し逆転した。
田村 習近平が権力闘争で都合の悪い人を粛正したという話があるが。
遠藤 日本には権力闘争論者がいる。権力闘争といえば日本人が喜ぶので、物語を作って中国の真相を見えなくしている。習近平としては、こっそりハイテク分野で進んでいけばいいから、どうぞやってくださいと。真実を見ないと日本の国益を害する。
言論統制をしているような一党支配の独裁国家が、宇宙や半導体のハイテク方面を支配してしまうのは、人類にとって非常に恐ろしい話だ。何としても食い止めなければならない。そこに目を付けたトランプ大統領は素晴らしい。習近平は、中国製造2025に関して譲歩することはない。ハイテク戦争に決着がつくまで、米中の対立は終わらないだろう。
田村 ファーウェイ問題とは一体何なのか。
遠藤 5G(第5世代移動通信システム)をファーウェイとクアルコムどちらの規格にするかで世界の趨勢(すうせい)が決まるので、米国はどんなことがあってもファーウェイを潰(つぶ)したい。
裏に中国政府がいて、政府に情報提供しているというが、ファーウェイはそもそも民間企業で、国有企業のZTEと30年戦争と言われるほど仲が悪く、中国政府はかつてファーウェイを潰そうとした。AI国家戦略構築のために指名された中国民間5大企業(BATIS)にも入っていない。また昨年12月末に、改革開放に貢献した民間企業CEOも含めて100人が表彰されたが、その中にもファーウェイのCEOは入っていない。社会信用システムを構築するための、民間企業を含む63の協力団体にも入っていない。これまで中国政府が指名する協力企業側には一切入っておらず、日本や米国が言っている状況とはずいぶん違う。
田村 日本はこういう状況の中でどのように考え行動するべきか。
遠藤 1989年の天安門事件後、西側諸国が経済封鎖をしていたが、日本が最初に経済封鎖を破って円借款を与え、92年には天皇訪中まで成し遂げた。それによって、諸外国、特に米国がすごい勢いで中国に投資し始めた。これと同じようなことをやってはいけない。例えばインド太平洋戦略を1年半前から方針転換して、昨年10月に習近平と安倍首相が会って一帯一路の協力を強化していくといった。これだけはやめてほしい。
中国は、一帯一路の沿線国の内の発展途上国に代わって人工衛星を打ち上げ、一帯一路を空にまで延長して、宇宙からコントロールするという野心を持っている。これを助長させるようなことを日本はいま絶対にやってはいけない。
田村 あまり協力しないほうがいいのか。
遠藤 一帯一路に関しては絶対にしてはいけない。日本はアジア開発銀行の融資などにおいて信頼性が高い。一帯一路は「借金漬けによる新植民地政策」などとして、欧州で信頼性を失いつつあるが、日本が参加すれば信用度が高くなり、中国に有利になる。習近平が日本に秋波を送り始めたのは、米国とが半導体の対中輸出を制限したからで、ハイシリコンは半導体を外販をしないこともあり、日本から良い半導体が欲しいからだ。シャトル外交を目指す気持ちも分かるが、習近平の来日にどんなメリットがあるのか。そんなことのために一帯一路に協力すると約束してはいけない。日本国民、国益のほうが大事だ。