激変する朝鮮半島情勢と日本
東アジアの問題、日本が解決を
特定失踪者問題調査会代表 荒木 和博氏
特定失踪者問題調査会代表の荒木和博氏は12日、世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良(ゆずる)・近藤プランニングス代表取締役)で「激変する朝鮮半島情勢と日本」と題して講演し、日本自身が朝鮮半島を含む東アジアの構造を変え、問題を解決しなければならないと強調した。以下は講演要旨。
北漂着船に危機感足りぬ
反日扇動、北には一石二鳥
先月8日、島根県の隠岐の島に4人が乗った北朝鮮の木造船が漂着した。5日後には、青森県深浦町の沖合で2人が乗った船が見つかった。深浦の船には海上で気づいたが、隠岐の島の船は上陸するまで気づかなかった。

あらき・かずひろ 1956年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。民社党本部書記局に入局し、教育・広報・青年運動などを担当。94年、民社党解党に伴い退職し、2002年まで現代コリア研究所研究部長。03年より特定失踪者問題調査会代表。04年、拓殖大学海外事情研究所教授に就任。著書に『北朝鮮拉致と「特定失踪者」』(展伝社)、『自衛隊幻想』(共著、産経新聞出版)ほか多数。新著に『北朝鮮の漂着船』(草思社)。
2017年11月には、北海道の松前小島に10人が乗った北朝鮮の船が上陸した。乗組員たちは島にあった小屋から液晶テレビや発電機まで盗んで捕まったが、これも分かったのは上陸後1週間たってからだった。
同じ頃、秋田県由利本荘市の海水浴場「本荘マリーナ」に木造船が着岸した。男性8人が保護されたが、地元では今も、あと2人いたはずだという話になっている。警察は周辺地域や浜にある小屋も探したが何も見つかっていない。
17年11月に青森県の佐井村に着岸した船は、無人だったが船の上にイカを吊(つ)るすやぐらが残っていた。乗っていた人が海に落ちたりする場合、船は損傷しているはずだ。しかしこの船はほとんど無傷で、中からは革靴が出てきている。船は平底の原始的な造りで、革靴なんて履いていたら簡単に海に落ちる。
どういうことかというと、乗っていた人が上陸した可能性がある。下りてどうなったかは全く分からない。日本のどこかにいるかもしれない。こういう現状があるが、あまり報道されないし、残念ながらこれに対する危機感も日本中で共有できていない。そのうち、もっとひどいことが起きるだろう。
昨年12月、韓国軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に射撃管制用のレーダーを照射する事件があった。この事件の一番の問題は、そこにいた北朝鮮の船が何だったのかということだ。韓国国防軍が公開した画像を見ると、船は日本に漂着したものと同じ平底の木造船だ。
韓国の報道では、この船には3人の生存者と1人の遺体が乗っていて、韓国側はこれを2日後に北朝鮮に送還している。しかし、3人のうち2人は脱水状態で、骨と皮だけだったという。そんな人を2日で送り返すのはあり得ない。
また、韓国は通常こういう人たちに対して尋問を行う。韓国軍、国家情報院、海洋警察がかなりの時間をかけるが、それも一切やっている形跡がない。
韓国側の船は、東海岸を担当する第2艦隊の旗艦と、海洋警察最大の警備艦だ。木造船を救助する船としてはどう考えてもおかしい。瀬取りや燃料補給だとしても、もっと小さい船で済む。
可能性を消していくと残るのは、この船が亡命しようとしていたということ。それも日本を目指していたのではないか。北朝鮮の高官など上のクラスの人が乗っていた可能性もあるが、もう一つ考えられるのは、日本出身者、つまり在日朝鮮人の帰国者や日本人妻、あるいは日本人拉致被害者が乗っていた可能性だ。そういう人が日本に入ったら大変なことになるが、北朝鮮に日本海の真ん中まで追いかけて捕まえられる船はないので、韓国に頼ったのだろう。
水産部傘下の海洋警察と、国防省傘下の海軍の両方に指揮命令系統を持つのは大統領府だけだ。セウォル号転覆事故のような、よほど特別なことでなければ、大統領が命令を出さない限り一緒に動くことはあり得ない。
北朝鮮の船は救難信号も出しておらず、韓国の船がどうやって見つけたのかも不思議だ。遺体も抵抗して死んだ可能性がある。とにかく、隠さなければならない理由があったのだろう。だから今、日本が威嚇飛行をしたと主張して、話をそらそうとしている。
日本の海岸は開けていて、木造船に人が乗っていても漂着するまで分からない。韓国では、鉄柵を張り巡らして兵隊が警戒しているが、それでも工作員は入ってくる。日本はどんどん来てくださいと言っているようなものだ。
富山県の黒部川の河口では、北朝鮮の工作員が使う水中スクーターが見つかっている。たいてい海岸で協力者が待っているので簡単に上陸できる。水中スクーターは、この黒部川と秋田、福井、奄美沖の計4カ所で出ている。
工作員について、韓光煕という朝鮮総連の元幹部の本に、上陸ポイントが38カ所出てくる。これは彼自身が探した場所で、実際には日本中に何百カ所もあるはずだ。上陸ポイントは木造船の漂着場所とも重なる。山口県長門市の青海島のポイントは、陸地側からは全く見えないが、海から目印になる岩がある。そういう所から工作員が入って来て、拉致も行われてきた。
日本政府が認めている拉致被害者は、未遂や外国籍の人を含めて21人いる。これは氷山の一角で、実際はどれだけいるか分からない。政府が認定していない拉致被害者について調査し、救出を目指す特定失踪者問題調査会のリストには約470人が載っているが、ほとんどすべての都道府県からいなくなっている。
横田めぐみさんの拉致は、新潟だから海辺のイメージだろうが、拉致された場所は海辺でも何でもない。現場から海岸までは350メートルくらいあって、工作員が海から来て連れ去ることは考えにくい。近くの大きい通りはバスがたくさん走っていて、以前は短大があったので夕方は女子大生も歩いていた。
しかし大通りを曲がると拉致現場の辺りは急に人が少なくなる。これを知っていて、普段は普通の市民の顔をしている人が、場所や人を選んで連れて行く。海辺まで行けば、そこからはプロの工作員がやる。
この事件が国会で明らかになったのは97年2月だったが、警察は事件当時から、通常の誘拐とは全く違う対応を取っている。誘拐の場合、警察は動きを悟らせないようにするが、この時は翌朝には機動隊が出動していた。警察は何らかの理由で北朝鮮が拉致したと分かっていた。
中学校1年生の女の子が北朝鮮の工作員に連れて行かれたとなると、大変なことになる。普通なら戦争になってもおかしくないが、日本は何もできないと考えた当時の政権が、結局これを表に出さないことにしてしまった。
朝鮮半島をめぐってはさまざまな問題がある。韓国経済が成長していた80年代は、現役世代に日本の時代を知る人たちがいて、悪いことばかりじゃなかったと言う人も多かった。
ところが韓国で民主化運動が起き、日本の時代を知る世代もリタイアしていった結果、北朝鮮のプロパガンダがすごく効くようになった。
北朝鮮にとって、日韓の連携は大きな脅威だ。日本のバックアップでいつ南に吸収されるか分からない恐怖感もある。反日を煽(あお)ることは、日韓関係を裂いて韓国を引っ張ることもでき、北朝鮮にとっては一石二鳥。文在寅政権はまさにそれを体現している。
これは大統領が代わっても絶対に終わらない。これから先もずっと続く。この状態とどうやって付き合うかだが、いずれ分かるとか、そのうち収まるとは考えないことだ。自分たちでこの問題を解決していく、朝鮮半島を含む東アジア全体の構造をわれわれが変えていくしかない。
米国や中国、ロシアに頼んでも問題は解決しない。これから先、そういう意味でまさに日本にとっての正念場になる。