今年も続く「半島リスク」

 日本に大きな影響を及ぼす朝鮮半島情勢。新年を迎え懸案解決を期待したいところだが、北朝鮮の非核化とそれをめぐる米朝対話、歴史認識問題などで日本との関係悪化が続く韓国・文在寅政権の動向の見通しはいずれも厳しい。今年もしばらく「半島リスク」は続きそうだ。
(ソウル・上田勇実)

北朝鮮、非核化応じず武力挑発も
韓国、世論つなぎ止めへ反日路線

 最大の懸案である北朝鮮の非核化では、北朝鮮が昨年に続きCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)に誠実に応じるのか否か態度を曖昧にさせたまま、一方で国連をはじめとする対北制裁の緩和・解除、朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定を平和協定に転換させるための終戦宣言を求めてくるものとみられる。

文在寅大統領

韓国の文在寅大統領(EPA時事)

 金正恩朝鮮労働党委員長は恒例の新年辞で「私は今後いつでも再び米国大統領と向き合って座る(対話する)準備ができている」とし、昨年6月に続く2回目の米朝首脳会談の開催に意欲を示した。トランプ米大統領も金正恩氏の呼び掛けに前向きな姿勢で応じている。

 昨年の米朝首脳会談は「対話のための対話」に終わった感は否めず、その場の米朝合意は非核化に向けた申告・査察を進めたい米国と独裁体制保証にこだわる北朝鮮との間で、互いに自国に有利な解釈を可能にさせるものだったため、非核化交渉はほとんど進展しなかった。このまま双方の溝を埋めずに2回目の会談に臨んでも結果は同じだ。

 また金正恩氏は新年辞で完全非核化を求める米国を揺さぶってきた。「(平和体制構築などの)約束を果たさず、共和国(北朝鮮)に対する制裁と圧迫を続けるならわれわれとしてもやむを得ず自主権と国家の最高利益(金正恩氏)を守護し、朝鮮半島の平和と安全を実現させるための新たな道を模索せざるを得なくなるかもしれない」と語った。「新たな道」とは核・ミサイルなど武力挑発の再開とみられている。

金正恩朝鮮労働党委員長

金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=時事)

 結局、近年の北朝鮮の姿勢は米国の出方や国際情勢に応じて「武力挑発→対話路線→武力挑発再開」という変化を繰り返すお得意の戦術だが、その底流には一貫して変わらない「非核化拒否と体制保証取り付け」という戦略がある。

 北朝鮮がこうした戦略を続けられるのは韓国・文政権の親北政策によるところも大きい。文大統領は2日の新年会メッセージで南北関係について「新年は平和の流れが後戻りできない大きな波になるよう最善を尽くす」と述べ、既存の南北・米朝対話路線を継続させたい考えを示した。

 9月の南北首脳会談で合意した金正恩氏の昨年内ソウル訪問は実現しなかったが、「平和の流れ」を加速させるため再び実現を目指すとみられている。金正恩氏が新年辞で強調した「前提条件なしの開城工業団地操業と金剛山観光の再開」にも応じる可能性があり、再開に踏み切るため「例外措置」として米国や国際社会に認めてもらい、制裁違反を回避しようとするかもしれない。

 文政権は日韓関係においても安全保障上の協力強化より国内世論の繋(つな)ぎ止めを優先させ、特に世論が鼓舞しやすい歴史認識問題で反日路線を続ける可能性がある。

 特に今年は日本統治期に起きた1919年3月1日の独立運動とそれを契機とした同年の大韓民国臨時政府発足から100年に当たる節目の年だとして、昨年7月発足した大統領直属の「3・1運動100周年記念事業推進委員会」を中心に全国的に記念行事が行われる予定で、北朝鮮との合同行事も検討中とされる。

 主体思想に基づく歴史観だけが許される北朝鮮では独立運動を「3・1人民蜂起」と称して重要視しないため、南北共同行事では「抗日民族闘争として記念碑的事件という共通認識」(金正仁・春川教育大学教授)に基づいた意義付けがなされるようだ。

 昨年10月の大法院(最高裁)判決により日本企業への賠償命令が確定した朝鮮半島出身の元徴用工の関連訴訟では、今後も追加で訴訟が起こされる可能性がある。韓国政府は昨年11月、いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づき設立された「和解・癒し財団」の解散を発表し、同問題で日本批判を繰り返す市民団体は勢いづいている。

 こうした反日路線には、経済失政などで最近は不支持が支持を上回る世論調査結果も出始めた政権支持率を回復させようという思惑も働いていそうだ。