対中警戒に揺れた北戴河
毎年夏に中国共産党幹部や長老たちが河北省の避暑地、北戴河に集って非公式・非公開で行う「北戴河会議」が終わったが、今夏は米中貿易戦争の激化や、悪評高き「一帯一路」構想など、難題山積で紛糾したとみられている。
難題といえばまず、米中貿易戦だ。中国経済の息の根を止めかねない。そして「中国製造2025」計画についても、「軍事覇権に拍車を掛ける」と欧米が警戒態勢に転じている。「一帯一路」構想についても、欧州では最近、中国共産党の工作について「国を借金まみれに陥れ、政治をコントロールし、港湾など戦略的軍事拠点を奪取する」と警鐘を鳴らしている。北極海航路を狙われているロシア、中央アジアも「一帯一路」への警戒感を強めている。
中国国内でも、党幹部を含め習近平独裁体制への懸念が高まり、人民解放軍や人民の不満も爆発寸前……。内憂外患の習政権は、まさに崖っぷちにある。
しかも、党最高幹部の動向にも〝異変〟が見られた。「北戴河に王滬寧の姿がない」「失脚か?」などの内容が反共産党系中国メディアから噴出し、「王滬寧に全責任を負わせ、習政権の〝イメージ転換〟を図るのでは?」などと侃々諤々(かんかんがくがく)となった。
王滬寧・中央書記処書紀(序列5位)は、江沢民・胡錦濤・習近平3代の重要理論の起草に関与し、中南海の〝知恵袋〟と言われてきた人物だ。結局、1カ月ほど消息不明だったが、訪中したベトナム共産党中央書記局のチャン・ドク・ルオン常務書記と8月20日に会見したことが報じられ、現状では失脚説が消えた。
とはいえ、「共産党一党支配」といったイデオロギーの正統性と「反日気運」を、国内外で徹底的に宣伝工作する役割を担ってきた彼が〝渦中の人物〟であることは間違いない。
米国を筆頭に世界が本気モードで中国を警戒し、具体的な策を打ち出す中、中国は〝思想の統一〟で抵抗しようと奮闘を強めている。8月21~22日、北京で開催された「全国宣伝思想工作会議」で、習主席は「中国の特色ある社会主義は新時代に突入した。思想を統一させること、力量を団結させることを宣伝思想工作の中心部分に据えなければならない」と主張し、王滬寧が司会を務めたことが報じられている。
一方、こういった〝新潮流〟からズレまくっているのが、日本の元首相たちである。8月11日、北京で開かれた国際シンポジウムに出席した鳩山由紀夫氏は、「一帯一路」構想について、「日本は大いに協力すべき」だと強調したという。福田康夫元首相も6月、江蘇省南京市の「南京大虐殺記念館」を訪問し、「過去の事実を正確に理解しなければならない」などと語ったことが報じられた。
今夏の北戴河会議でも、習主席の側近が「日本人はおだてて利益を少し上げれば、長期的なビジョンなしに共産党に協力する。共産主義とか米中関係とか、政治的なことが分からないので、日本の企業を騙(だま)せばよい」と発言した、との話も漏れ伝わる。日本はもういい加減、騙されてはならない。