非核化費用で米朝首脳、日本が北に5兆円拠出
今月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談で、トランプ米大統領が金正恩朝鮮労働党委員長に対し、北朝鮮の「完全非核化」に要する費用を名目に日本に500億㌦(約5兆5000億円)を拠出させる約束を交わしていたことが明らかになった。日本政府関係筋が24日、本紙に明らかにした。日本人拉致問題が未解決の段階での破格のディールに波紋が広がりそうだ。(編集委員・上田勇実)
拉致未解決、破格なディール
元山リゾート開発でも交渉
トランプ氏は12日、米朝会談後に現地で開かれた記者会見で非核化に掛かる費用について「韓国と日本が払う」と述べていたが、その詳細は不明だった。
日本政府は北朝鮮による日本人拉致被害者の全員帰国にメドが立った後、日朝国交正常化交渉に臨む考えで、その際、2002年日朝平壌宣言に盛り込まれた北朝鮮への経済協力の一環として資金支援が可能との立場だ。
米朝会談後の対話ムードを受け、日朝対話への期待が高まり、14日にはモンゴルでの安全保障に関する国際会議で日朝双方の外務省関係者が接触したが、「腹の探り合いにも至らない事実上のあいさつに終わった」(政府関係者)もよう。拉致解決への道筋すら見えない段階での対北資金支援は極めて難しいのが実情だ。
5兆円という規模について同筋は「平壌宣言にある経済支援に基づいたとしても破格」と指摘した。当時、日本は1兆円の支援を準備していたとされるが、宣言から16年経過した現時点での算出額としては倍の2兆円が限度とみられる。
ただ、トランプ氏は会談で金正恩氏に拉致問題の解決を促し、金正恩氏自身も日本との対話に前向きの発言をしており、水面下で交渉が始まる可能性は高い。
また同筋によると「北朝鮮側は5兆円の見返りに同国の地下資源開発権を日本側に手渡す用意がある」という。地下資源開発には「電力難がネック」(崔景守・北朝鮮資源研究所所長)とされるが、米国専門家らの現地調査に基づくデータなどを基に研究が行われ、日本の財界を中心に依然として高い関心が寄せられている。
一方、同筋によると、トランプ氏は北朝鮮南東部の元山(江原道)で進むリゾート開発への投資について金正恩氏と話し合ったという。
一部韓国メディアによると、金正恩氏は米朝会談の前日、シンガポールの高級総合リゾートホテル「マリーナベイ・サンズ」を視察した際、「元山にカジノを誘致する構想を練った」という。同ホテルはラスベガスのカジノリゾート運営会社によって開発され、カジノも入っている。
元山は金正恩氏の肝煎りでリゾート開発が進められ、特に最近は「軍部隊や企業所からの大規模動員が続いている」(同筋)など拍車が掛かっている。
今回の米朝会談で北朝鮮は「完全非核化」(米朝共同声明)の見返りに米国による「北朝鮮の安全保証」(同)などを得た形だが、「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)の見返りには8000億㌦(約88兆円)を求めている」(北朝鮮情報筋)ともいわれる。北朝鮮は今後の非核化交渉でさらに巨額の経済支援を求めてくる可能性がある。