就任から1年、比大統領の依然高い支持率

終わり見えぬ麻薬戦争

 ドゥテルテ大統領が先月30日に就任から1年を迎え、今月には2度目となる施政方針演説に臨む。強権的スタイルの麻薬撲滅政策が人権団体などから批判を呼んでいるが、国内では依然として高い支持率を維持している。しかし南部で「イスラム国」(IS)系の過激派の台頭に直面し、戒厳令布告に踏み切るなど2年目は試練の船出となった。経済支援と引き換えに事実上の棚上げ状態が続く中国との南シナ海の領有権問題にも懸念が広がる。
(マニラ・福島純一)

警察の腐敗問題も再浮上
IS系過激派台頭、戒厳令延長か

 最近の世論調査でドゥテルテ氏の支持率が、過去最高となったことが分かった。民間調査会社の「ソーシャルウェザーステーション」が7日に発表した世論調査によると、ドゥテルテ大統領の実績に「満足」との回答は78%に達した。「判断できない」との回答は10%で、「不満足」との回答は12%だった。満足から不満足を差し引いた純満足度は66%で、3月の調査より3%の増加となり過去最高の数値となった。一方、パルスアジアが16日に発表した世論調査でも82%の支持率を記録し、3月の78%を上回った。

ドゥテルテ氏

駐屯地を視察するフィリピンのドゥテルテ大統領(中央左)=7日、南部ミンダナオ島イリガン市(AFP=時事)

 順風満帆に見えるドゥテルテ政権だが、5月23日に政権始まって以来の大きな問題に直面する。「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うイスラム過激派マウテグループが、ミンダナオ島のマラウィ市を占拠し国軍部隊との大規模な交戦に発展したのだ。深刻な事態と判断したドゥテルテ氏は迅速に戒厳令を布告し、本格的な掃討に乗り出した。

 マルコス政権で多くの人権侵害を引き起こした戒厳令は、フィリピン人の歴史的トラウマとなっており反対の声も根強い。しかし最高裁は複数の差し止め請求に対して、戒厳令が合憲であると判断。これもドゥテルテ政権の追い風となった。

 当初は6月12日の独立記念日を目標に過激派の制圧を目指していたが、その後6月26日のラマダン明け、そして24日の施政方針演説と延長を重ねるなど、外国勢力の支援を受ける過激派の掃討は予想外に難航。14日までに国軍兵士93人と民間人45人、過激派392人の死亡が確認され、避難民は30万人以上に膨れ上がった。戒厳令の期限である60日間が迫っており、ドゥテルテ氏は年末まで戒厳令を延長する方針を示している。

 また戒厳令の布告に反発する共産ゲリラの新人民軍(NPA)も、マラウィ市への国軍部隊集中で手薄になった地域で襲撃を繰り返すなど反政府活動を活発化させ、これも頭の痛い問題となっている。ドゥテルテ氏は就任直後に共産勢力との和平交渉を再開させたが、NPAが停戦違反を繰り返し交渉は停止状態に陥っている。

 南シナ海の領有権問題では、アキノ政権で断絶状態だった対話の再開を優先するため融和姿勢に転じ、早期の訪中を実現。友好関係を築き上げ、巨額の経済支援を取り付けるなど独自の手腕を発揮した。しかし同じく中国と領有権問題を抱える周辺諸国からは、融和に転じたフィリピンの姿勢に困惑も広がる。2年目を迎えた今、いつどのようにハーグ仲裁裁判所の判断を当事国として中国に切り出すのか、その動向に注目が集まる。

 終わりの見えない麻薬戦争も悩みどころだ。1年目から刑務所不足が深刻化するほどの成果を上げたはずだが、依然として巨額の麻薬が押収される事件が相次ぐ。さらに麻薬組織の幹部が服役している刑務所で再び麻薬取引疑惑が発覚し、刑務所の秩序を取り戻すために投入された警察特殊部隊の関与も疑われるなど、警官の腐敗問題も再浮上した。刑務所内の麻薬問題を根絶できない政権がどのようにして全国の麻薬を根絶させるのか、という批判も地元メディアから噴出し始めている。

 2年目のスタートを切ったドゥテルテ政権。今後はより具体的な結果が求められることになりそうだ。