薬物非犯罪化の危険 日本の対策水準を世界に

薬物汚染少ない誇り

 芸能界での薬物汚染の報道が後を絶たない。最近では男性アイドルグループの元メンバー、田中聖さんが大麻所持で逮捕され、有名俳優・橋爪功さんの息子で俳優の橋爪遼容疑者が覚せい剤使用の罪で起訴された。薬物の有害性や対策について述べることもできるが、今回は異なる視点から薬物問題に切り込んでみたい。

 というのも、薬物関連の犯罪に寛容さを求める声がここ最近目立ってきたからだ。「大麻は海外では合法な場所もある」「日本の薬物犯罪に対する処罰が厳しすぎる」といった意見がインターネット上で散見される。薬物の非犯罪化が世界で進んでいる中、日本でも薬物使用者に対しては罰よりも回復のためのサポートが必要だ、といった意見もある。

 「薬物の非犯罪化」―。今、世界では薬物政策に関して緩和する風潮が広まっている。

 米国のニクソン大統領の時代には「War on Drugs」(麻薬戦争)という言葉とともに、薬物問題に対して徹底的に取り組む姿勢がとられた。しかしそれから約40年経(た)ち、2011年には「麻薬戦争」の敗北と薬物と「共存」する方向性が、コフィー・アナン元・国際連合事務総長などの世界的有識者を含む薬物政策国際委員会によって報告書として発表された。米国では17年6月現在で、29の州とワシントンDCにおいて医療用大麻を含む大麻の所持や使用等が制限付きで認められている。また南米のウルグアイでは13年に大麻の生産や売買などが初めて国レベルで合法とされた。

 ここで重要なのは、このような中、日本はどのようにすべきなのか、ということであろう。

 先進国の中でも指折りの治安の良さと薬物汚染の少なさを誇る日本が、薬物対策に関して、薬物汚染が日本よりもずっとひどい「世界」に水準を合わせる必要がそもそもあるのか? 薬物に対して寛容になることで、どのような地域社会になってしまうのか。薬物に安易に手を出す人が増えることは容易に想像できるだろう。

 数年前の危険ドラッグの蔓延(まんえん)を思い起こしてほしい。法の網目をかいくぐって広まった危険ドラッグ(当時は「脱法ドラッグ」)の販売店が全国各地に数百店舗存在し、横浜などでは自動販売機までもが登場した。14年には東京・池袋で危険ドラッグを吸引した30代男性の運転する車が暴走、7人死傷という悲劇が起こってしまった。薬物使用者があふれる地域、治安が悪化する社会に住みたいと思う日本人はいるだろうか?

最初の対策は予防教育

 私は、薬物を使用してしまった人のサポートや社会復帰に反対しているわけではない。過去の薬物使用を反省し、回復を真剣に目指している人を私は個人的にも知っているし、そのような人生のセカンドチャンスは絶対にあるべきだと思う。しかし、最初にフォーカスすべきなのはあくまで「予防」であると、教育に関わる者として改めて強調したい。

 薬物に一回でも手を出さないため、一線を越えないための教育に最も力を注ぐべきなのだ。それは交通整備と同様、交通事故が起こってから事後処理に労力を費やすよりも、その前に対策を講じるのと似ている。「予防」からこぼれ落ちてしまい、残念ながら薬物に手を染めてしまった人達に対しても、再度手を出さないための教育が必要だろう。

 日本のおもてなし精神に根付いたサービス水準の高さが海外で評価されているが、それと同時に、日本の高い倫理観と治安の良さも日本人として世界に誇れるよう、薬物対策についても水準を高く保つべきだ。20年には東京オリンピックが開催され、世界中から多くのアスリートや観光客が来日する。まさにジャパン・スタンダードに基づいた「薬物にNO!生きることにYES!」を世界中に発信していく絶好の機会だと私は考える。