世界に広めたい「母の味」


 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「和食 日本人の伝統的な食文化」の世界無形文化遺産への登録を決定した。国内の無形文化遺産は、昨年の那智の田楽(和歌山県)に続いて22件目。食関連では初めてとなる。

 今回の登録を機に、われわれ日本人がまず「和食」の普遍的な素晴らしさを改めて認識し、その伝統を育み、さらに世界に広めていくため努力すべきだ。

 自然や神仏への感謝

 ユネスコの政府間委員会は、和食が「自然の尊重という根本的な精神に関連していること」を認めた。これは、まさに和食の最も本質的な部分である。

 もちろん食はどこの国でも、自然の中で取れた材料を用いて作られる。しかし、和食は素材を余すところなく使い、素材そのものの持つ味や栄養を生かす。さらに、食材を最も美味しく食することのできる時期「旬」を大切にするという特徴がある。そして何より、自然や神仏への感謝の心など、世界の中でも特に自然と一体性を持った食文化と言える。

 「うまみ」という奥深い味を創り出すダシの使用、味噌や醤油など発酵食品の利用、そして刺し身、煮物、焼き物、鍋料理など調理法も多彩だ。さらに美しい器に美しく盛りつけるなどの視覚的な演出、味噌汁や吸い物を盛っても冷めにくいお椀なども極めてユニークだ。

 近年、和食はヘルシーな食として世界的に注目されている。和食の世界的な広がりは、世界の人々の健康にも資することにもなる。

 ところが問題は、これだけ健康面で優れているにもかかわらず、日本の食卓で和食が減ってきていることだ。もちろん、カレーやハンバーグ、スパゲティなど世界各国の料理を自宅でも作ることができる時代、メニューが多様であること自体は悪いことではない。

 しかし、魚料理が多く一汁三菜を基本とする和食は、栄養のバランスの面でも合理的にできている。長い目で見た国民の健康づくりのためにも、和食中心の食卓は守っていくべきだ。

 和食の一番の課題は、塩分の多いこととされている。これはダシなど繊細な味を生かすことで克服できるが、そのためにも、小さい頃から和食の味に慣れておくことが大切だ。

 老舗の料亭がその伝統を継承することと、一般家庭で和食が日々食されることは、和食の伝統を守るための車の両輪である。学校給食や食育でカバーすることも重要だが、やはり基本は家庭の「母の味」である。

 政府は和食の無形文化遺産登録を機に、日本の農産物や水産物の輸出に弾みを付けたいと考えている。政府のクールジャパン推進会議のまとめた行動計画には、「正統な日本料理」の料理人を「食の伝道師」として海外に派遣する事業などが盛り込まれている。

 担い手育てる食習慣

 海外で「日本風」の料理が普及することは、その裾野が広がるので必ずしも悪いことではないが、本物の日本料理を提供する店がもっとあっていい。「海外で日本料理で勝負しよう」という若い担い手を育てるのも、家庭での和食の習慣である。

(12月10日付社説)