秘密保護法成立、次の課題は防諜機関設立だ


 特定秘密保護法が制定された。日本版NSCの設立と相まって、独立国家として国家の安全を確保する体制整備が前進したといえる。だが、漏洩(ろうえい)すれば国家の存立を脅かしかねない安全保障上の秘密の保護体制が完備したと見るべきでない。

新聞記者だったゾルゲ

 民主党や共産党、社民党が同法の制定に強く抵抗した。「言論の自由が束縛される」「政府官僚が失策を隠蔽し易くなる」「情報公開法と矛盾する」などが、その反対理由だ。世界に200足らずの国があるが、秘密保護法(「刑法上の秘密保護規定」を含む)がないのは、日本ぐらいである。それでいて情報公開法だけがあるのは異様といわねばならない。

 欧米の主要議会制民主主義諸国では近代以降、秘密保護法制を整備しており、第2次世界大戦後、情報公開法の制定に乗り出した。両法制は両立しており、言論の自由が阻害されたという実例はない。日本だけがそうでないというなら、論拠を示すべきだろう。

 企業をはじめとする団体はむろん個人にも、漏洩すると著しい不利益を被る秘密がある。だが、国家にだけそのような情報が存在せず、保護する必要がないというのであろうか。諸外国が秘密保護法制でスパイに対し死刑を含む重刑を科しているのは、重要情報の漏洩が国家の存立に与えるダメージの大きさを表している。それに先の大戦で、わが国は情報戦の分野で終始敗北を喫したという点も思い出すべきであろう。

 反対論者の中には、元毎日新聞記者の西山太吉氏の事件を言論弾圧の事例として挙げる向きもある。しかし、これは外務省の女性職員と“情を結び”得た情報を、当時の社会党議員に手渡し国会で追及させた事件である。西山氏は毎日新聞に一行の記事も書いておらず、言論弾圧とは異なる事件なのだ。

 「記者の取材は法の対象とすべきでない」との主張も出された。だが、ゾルゲ事件のゾルゲ、これに協力した尾崎秀実も新聞記者だったことを想起すべきであろう。世界の情報戦史をひもとけば判明するように、スパイが身分を偽装するために利用する職業は記者であることが少なくない。当該情報の隠蔽(いんぺい)が国益を著しく損なうとの認識があれば、報道機関や記者は自己責任で報道すべきであろう。罪に問われることで躊躇(ちゅうちょ)するようでは「社会の木鐸(ぼくたく)」の名が泣く。

 特定秘密保護法の成立で「秘密がやたらと増加する」と指摘する者もいる。だが、秘密漏洩防止の秘訣は、第1に秘密の範囲を重要な情報に限定すること、第2に当該秘密へのアクセス権は地位の上下に関係なく、それを必要とする者にのみ与えること、の2点とされている。

法制定だけでは不十分

 いずれにしろ、法制定だけで重要秘密が守れると誤解してはならない。「法は破られることによってではなく、適用しないことで形骸化する」というのが本質だ。その好例は破防法である。特定秘密保護法を適用するには、英国の「MI5」のような防諜(ぼうちょう)機関が不可欠である。それゆえ、次の課題は秘密情報収集・防諜両機関の設立である。

(12月8日付社説)