自衛隊を国防軍に 改憲論議を本格化せよ

安倍首相の所信表明

 臨時国会冒頭の衆院本会議で、安倍首相の所信表明演説中に自民党議員らが起立して拍手したことに民進党などの野党は「議会の秩序を乱す異常な事態だ」として抗議した。

 安倍首相は演説の後段で、我が国の領土、領海、領空は断固として守り抜くと述べ、「現場では夜を徹して、今この瞬間も海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が任務に当たっています。極度の緊張感に耐えながら強い責任感と誇りを持って任務を全うする。その彼らに対し今この場から心からの敬意を表そうではありませんか」と呼びかけて、拍手を始めたことが問題だというのである。

 どうしてこれが問題になるのか私には理解できないのだ。それよりも選良とは思えぬ下卑(げび)た野次(やじ)を飛ばし、下劣極まりない言動で国会の権威と品位を汚す議員らの方がよっぽど議会の秩序を乱しているではないか。

 閑話休題、安倍首相は演説の終わりに、「憲法がどうあるべきかを決めるのは政府ではなく国民です。その案を国民に提示するのは国会議員の責任であります。与野党の立場を超え、憲法審査会での議論を深めていこうではありませんか」と締めくくり、憲法改正についてこれまでにない意欲を示した。

 自民党はすでに平成24年に憲法改正草案を策定しており、その評判はさまざまであるが、少なくとも憲法9条に関する改正草案については刮目(かつもく)に値するものであると思っている。

 ちなみに現行日本国憲法第9条の1項は、「戦争や武力行使等の永久放棄」、つまり侵略的な戦争を放棄したものと解釈されており、平和主義を定めた規定であることから改正草案1項でも基本的な変更はない。

 問題は現行憲法9条2項の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」である。条文通りに読めば軍隊だけでなく、どんな軍事組織も持てないことになるし、その上に交戦権も認められないとなると、これはもう国の防衛すら不可能となる致命的な規定であると言わざるを得ない。

 交戦権とは一言でいえば、戦争をする権利である。それは国家が国際法上、交戦国として認められている諸権利で、例えば敵の兵力を殺傷、破壊する戦闘行為などを認めるものであるが、現行憲法はこの権利を自分から認めないというのである。何とも奇妙奇天烈(きてれつ)な憲法ではないか。

 改正草案はこの現行憲法9条2項の瑕疵(かし)を改めるため、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と自衛権を明示的に規定して、新たに9条の2として「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」とした。そして「国防軍は任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」として、国防軍に対する「文民統制」の原則を明確に規定した。

厳しさ増す安保環境

 以上が自民党の憲法9条改正草案の肯綮(こうけい)である。昔、筆者が若い頃、旧軍出身の自衛隊の将官たちが「自衛隊の魂を腐らせたのは憲法9条だ」と慨嘆するのをよく聞いたが、それは今も変わらない。我が国を取り巻く安全保障環境はかつてない厳しさを増している。その脅威に対応するには自衛隊を国防軍にしなければいけない。また軍人としての誇りと名誉も与えねばならない。

 国防の任務に就く彼らに心から敬意を表すのなら拍手ではなく、改憲論議を本格化させることだ。これからの衆院憲法審査会の実のある議論を望む。