東シナ海上の領空侵犯 早急に法的不備の是正を
中国の危険な挑発行動
中国の「南シナ海は漢の時代の2000年前から中国の一部だった」という噴飯物の主張に対して、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は「歴史的な権利を主張する法的根拠はない」とする判決を示した。この判決は「最終的なもの」であり、「紛争当事国は仲裁判断に従う義務がある」と国連海洋法条約に定められている。
しかし案の定、中国は仲裁裁判を「政治的茶番」だとか、判決を「ただの紙屑(かみくず)だ」として従わない立場を強調しており、中国の無法ぶりはいよいよ極まれりである。
このところの習近平国家主席や李克強首相、王毅外相らの言動は正常とはとても思えない。これら首脳の顔つきを見ていると、さながら伝奇小説『水滸伝』に描かれる盗賊首領の宋江らの風貌が二重写しになってくるのだ。中国共産党政府は国際法や世界秩序に反抗する恰(あたか)も無法者と盗賊の巣窟となった梁山泊のようなものだ。
これが世界の平和と安定に責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国である中国の本性なのだということを肝に銘じておかねばならない。
情勢の悪化が懸念されるのは南シナ海だけではないのである。東シナ海においても累卵の危機が迫っているのだ。6月9日、中国海軍のフリゲート艦が尖閣諸島周辺の接続水域内に入り、初めて尖閣諸島沖にミサイル搭載の軍艦が姿を現した。そして15日には中国海軍の情報収集艦が鹿児島県沖の口永良部島周辺の領海に侵入し、続けて翌日に沖縄県の北大東島周辺の接続水域にも入った。中国の挑発行動が新たな段階に入ったと言わざるを得ない。
さらに中国の危険な挑発行動が東シナ海の海上のみならず上空でも起きていたことが判明した。その事実を公表したのは元航空支援集団司令官の織田邦男元空将である。元戦闘機パイロットでもある織田氏によれば、同17日、中国軍の戦闘機が空自のスクランブル(緊急発進)機に対して極めて危険な挑発行動である攻撃動作を仕掛けてきたという。空自戦闘機はドッグファイトに巻き込まれ、不測の状態が生起しかねないと判断し、自己防御装置(フレア)を使用しながら中国軍機によるミサイル攻撃動作を回避しつつ戦域から離脱したというのだ。これは極めて緊迫した状況であったと推知される。日本政府は一切公表していないが、東シナ海の上空では毎日のように中国の危険極まりない挑発行動が続いているというのである。
織田氏は月刊誌『Hanada』(9月号)で中国軍機の攻撃動作を告発した理由を「法制上に大きな欠陥があることを指摘したかったからだ」とし、次のように述べている。自衛隊法にはどこまで武器の使用ができるかという「権限規定」が定められているが、「領空侵犯措置」だけが権限規定がない。法律に明示されていないことは何もできないというポジティブ・リストの解釈で、正当防衛と緊急避難の武器使用は別として、領空侵犯措置任務遂行のための武器使用は認めないということだ。これでは無法な中国軍機による領空侵犯は防ぎようがない、と法的不備の是正を訴えているのだ。
2機で緊急発進の理由
以前、スクランブルの任務に就く若い2尉(中尉)のパイロットに、なぜ2機が同時に発進するのかを訊ねたら「僚機がやられたら武器を使用することができるからだ」と答えたことを思い出す。政治の責任はつくづく重いと思い知らされる。安保法制の整備で事足れりと思っていたらとんでもない。こうした自衛隊法の改正こそ急がねばならないのだ。