共和党内での三つ巴の戦い
二分された伝統的保守
ポピュリズムが改革を妨害
【ワシントン】米国は20世紀の全盛期の間中ずっと、社会主義の誘惑の言葉にあらがってきた。米国はそれができる唯一の民主主義大国だった。その米国が突然、知的崩壊から1世代で社会主義の魅力に屈するなど考えられない。社会主義者バーニー・サンダース氏が、今は勢いづいているとはいえ、民主党の大統領候補指名を獲得するとはやはり、考えられない。
そうなれば民主党は、11月の選挙で歴史的な大失敗を犯す可能性も出てくる。しかし、サンダース氏が党を左傾化させたことは間違いない。さらに、エスタブリッシュメント候補ヒラリー・クリントン氏がそれに追い付こうと競い合った。
一方の共和党では、党全体が騒乱状態にある。共和党は、1世紀にわたる保守主義をトランプ主義と交換するかどうかという誘惑にかられている。
今年の大統領選は、ドナルド・トランプ氏の民族国粋主義ポピュリズムと伝統的保守主義との間の世紀の一戦になった。この伝統的保守主義は二つに分かれる。テッド・クルーズ氏の焦土作戦が得意な根本主義版と、マルコ・ルビオ氏らエスタブリッシュメント候補に代表される改革派版だ。改革派については、立候補していないポール・ライアン氏や、生産的思考をする「リフォーミコン」と呼ばれる政策通らを見ればよく分かる。
トランプ氏は、自身は保守派だという。しかし、その発言や政策からは、トランプ氏の保守主義は思想的ベースというよりも借り物のように見える。セントラルパークが見渡せる3階の賃貸ペントハウスのように見えるのだ。トランプ氏は、ロナルド・レーガン氏も左派から右派に転向したと訴えるが、レーガン氏が転向したのは40歳代の時であり、トランプ氏のように60歳代の時ではない。
トランプ氏とサンダース氏は、賃金と生活水準が数十年にわたって上がらず、中産階級、労働者階級が圧迫されている問題に対処しようとしているが、方法は全く違う。サンダース氏は、経済、政治制度を富裕層がいいように操作していると指摘する。トランプ氏は、外国人を攻撃する。中でも最大の標的は、メキシコ人、中国人、日本人、サウジアラビア人だ。愚かで無能、買収され腐敗した米国の指導者と手を組んで、米国人を容赦なく利用してきたと主張している。
つまり、トランプ氏の最もよく知られた政策は反移民、反貿易、反イスラムだ。1100万人の人々を国外退去にし、中国製品に45%、メキシコに進出した米製造業に35%の関税を課すことを訴えた。最も知られているのは、イスラム教徒の米国入国を完全に禁止すると主張したことだろう。「米国の代表者が何が起きているのかを把握するまで」の一時的な措置だというが、先が読めず、方策としては意味がない。
トランプ氏は、米国保守派の信条に対して多少の懸念を持っている。特にティーパーティーに対しては強い不安を持っている。小さな政府に関してだ。それは、「土地収用」を強く支持していることからよく分かる。私有財産の政府による強制収用についてトランプ氏は「素晴らしい」と指摘した。
トランプ氏は、プーチン大統領を素晴らしいとは言っていないが、威張り散らし、国を思い通りに動かしているこのミニ皇帝が気に入っている。トランプ氏は、プーチン氏が反対派やジャーナリストを殺害したことを知るとまず、「この国でもたくさんの殺人が起きている」と語った。これは、十字軍の被害をどう償うべきかに関する道徳的等価性をめぐるばかげた議論そのものだ。保守派は何十年も前からこれを否定してきた。公平のために言っておくと、この後トランプ氏は、ジャーナリストの殺害には反対した。
クルーズ氏は、「反エスタブリッシュメント」陣営のトランプ氏と一緒に扱われることがよくある。これはクルーズ氏にとってしばらくは、戦術的に都合がよかった。しかし、現在、「エスタブリッシュメント」がどれほどの意味を持つかということを考えるとほとんど無意味だ。両者の政治哲学の大きな違いを見ても、それは明らかだ。クルーズ氏は純粋な保守派だ。緊縮型で、かなりの強硬派であり、議会の主流派の保守派を裏切り者とみている。トランプ氏については、保守派ではないと強く主張している。
個人的には、第3の改革派保守主義を支持したい。米国が抱える問題は、非情な大富豪や抜け目のない外国人のせいではなく、20世紀の時代遅れで固定化された福祉国家制度が原因だと考える。改革は不可避だが、新ポピュリズムに邪魔されている。しかし、ライアン下院議長は今年、議会に本格的な改革案を提出する構えだ。福祉改革、医療保険改革、税制改革、議会改革のような「通常の秩序」に戻すつまらない改革だ。
ルビオ氏や、長い目で見ればまだ可能性のあるクリス・クリスティー氏、カーリー・フィオリーナ氏のような大統領と組めば、このような改革によって保守主義は、レーガン時代以来のこの国の支配的思想になる絶好のチャンスを手にすることになる。
それは、共和党がポピュリスト以外の道を選べばの話だ。そうでなければ、保守派の復活は遠のくことになる。
(1月29日付)