米大統領選 「想定外」の展開で予備選突入へ

 11月の米大統領選に向け、民主、共和両党の候補者を決める予備選・党員集会のスタートまで約10日となったが、両党とも「想定外」の展開になっている。共和党はいずれ失速すると言われ続けてきた不動産王ドナルド・トランプ氏が勢いを保ったまま。民主党はヒラリー・クリントン前国務長官の独走が予想されていたが、社会主義者を自任する左派候補と接戦になっている。(ワシントン・早川俊行)

トランプ氏の勢い衰えず 共和党

社会主義者が台風の目に 民主党

 2月1日に全米の先陣を切ってアイオワ州党員集会が行われ、次いで9日にニューハンプシャー州予備選が行われる。両州での結果は指名争いの流れを大きく左右するだけに、生き残りをかけた激しい選挙戦が繰り広げられている。

 共和党指名争いは、アイオワ州がトランプ氏とテッド・クルーズ上院議員の一騎打ち、ニューハンプシャー州は独走するトランプ氏をマルコ・ルビオ上院議員やクルーズ氏らが団子状態で追う展開だ。

ドナルド・トランプ氏

14日、サウスカロライナ州で開かれた米大統領選の共和党討論会終了後、報道陣の質問に答えるドナルド・トランプ氏(UPI)

 もしトランプ氏がアイオワ州を制した場合、続くニューハンプシャー州と合わせ、開幕2連勝を収める公算が高い。「近代ではアイオワ、ニューハンプシャー両州で勝利した共和党候補はいない」(ワシントン・ポスト紙)だけに、トランプ氏の指名獲得が大きく現実味を帯びることになる。

 トランプ氏の最有力対抗馬であるクルーズ氏は、同性婚や人工妊娠中絶に反対する社会保守派、特にキリスト教福音派の支持を背景に浮上してきた。穏健派路線を志向する党エリート層に反抗するその政治姿勢から、トランプ氏とともに「アウトサイダー(部外者)」と見なされている。

 共和党指名争いは通常、エリート層が推す穏健派候補と草の根有権者が推す保守派候補の対決になることが多いが、今回はトランプ、クルーズ両氏によるアウトサイダー対決という異例の展開。共和党内で渦巻く「反ワシントン」機運の強さを物語るものだ。

 この状況に党エリート層は危機感を募らせている。ブッシュ前大統領の選挙参謀だったカール・ローブ氏は、トランプ氏が共和党候補になれば、本戦で民主党候補に敗れるだけでなく、上下両院で過半数を失うことになると警告。クルーズ氏が候補になっても、「状況は危険」との見方を示す。

 それでも、トランプ、クルーズ両氏の勢いを止めるのは困難になりつつあり、ワシントン・ポスト紙によると、エリート層の間でも両氏のどちらかが共和党候補になる可能性が高いという現実を受け入れる動きが出ているという。

ヒラリー・クリントン氏

17日、サウスカロライナ州で開かれた米大統領選の民主党討論会に参加したヒラリー・クリントン氏(左)とバーニー・サンダース氏(UPI)

 一方、民主党指名争いは、クリントン氏の圧倒的優位で予備選に突入するとみられていたが、社会主義者を自任するバーニー・サンダース上院議員が急上昇している。全米の支持率ではクリントン氏がリードしているが、ニューハンプシャー州では隣接するバーモント州選出のサンダース氏が優勢。アイオワ州でもサンダースがクリントン氏を逆転したとの世論調査も出ている。

 万一、クリントン氏がアイオワ州を落とせば、大打撃となる。2008年大統領選ではアイオワ州でオバマ氏に敗れ、同氏を勢いづかせた苦い経験があるからだ。サンダース氏はオバマ氏と同様、若者から絶大な支持を得ており、スタートダッシュに成功すればさらに波に乗る可能性がある。

 サンダース氏の台頭は、民主党エリート層に共和党エリート層と同じ悩みをもたらしている。社会主義者が指名を獲得すれば、穏健派や無党派を遠ざけ、本戦勝利を困難にする可能性が高いためだ。

 共和、民主両党とも「想定外」の展開になっている要因はさまざまあるが、オバマ大統領にその責任の一端があると指摘する声は多い。

 オバマ氏は「保守もリベラルもない一つの米国」の実現を訴えて大統領になったが、実際はリベラルな政策を推し進め、米政治の「分極化」をもたらした。共和党では、医療保険制度改革(オバマケア)など「大きな政府」路線への反発から草の根運動「ティーパーティー(茶会)」が生まれるなど、保守化が進んだ。一方、民主党でも、オバマ政権の政策は左派勢力を勢いづかせ、経済格差是正を求める「ウォール街占拠運動」などが生まれた。

 オバマ氏の下で加速した「分極化」が、トランプ氏やサンダース氏という極端な候補が受け入れられる土壌になっていることは否めない。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙のダニエル・ヘニンジャー副論説委員長は「オバマ氏のレガシー(遺産)はトランプ氏とサンダース氏だ」と指摘。ビクター・デービス・ハンソン・フーバー研究所上級研究員は「オバマ氏はトランプ氏という怪物を生み出したフランケンシュタイン博士だ」と論じている。