エジプトとロシア、シリア国家維持では利益共通

ロシアのシリア内戦介入
アルアハラム財団事務局長 モハメド・F・ファラハト氏に聞く(1)

混迷を深めるシリア情勢に、アサド政権と連携したロシアが本格介入した。このことは中東全体の行方に大きな影響をもたらす可能性がある。エジプトの有力な戦略研究所や新聞社などを傘下に置くアルアハラム財団事務局長のモハメド・ファイエズ・ファラハト氏に聞いた。(聞き手=カイロ・鈴木眞吉)

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 モハメド・ファイエズ・ファラハト 1992年カイロ大学政治経済科学学部学士号。アルアハラム政治戦略研究所研究員を経て現職。2001年、同大学同学部で、修士号取得。韓国の対米外交、フィリピンの民主主義の発展、アフガニスタンと東南アジアのテロなどテーマに論文・記事。

 ――ロシアのシリア内戦介入の経緯をどう見るか

 シリア危機が始まった時、米国は軍事介入を支持したが、ロシアと中国が国連安保理で反対、否決した。リビア問題で、国連安保理は最初、市民を救うために軍事介入を容認したが、リビア政権や国家の破壊に帰結したことに懲りていたからだ。シリアでの航空禁止空域の設定も拒否された。

 反体制派への軍備増強も武器支援も拒否されたので彼らは軍事能力を持ち得ず、シリアでの実際のパワーはアサド政権軍だけになった。だから、ヌスラ戦線や「イスラム国(IS)」など、過激なテログループが現れた。米国は過激派グループに押され、解決策が無くなったので、ロシアが介入する羽目になった。

 米国は、ロシアの政治解決の役割を受け入れ、政治的展望を再構築しなければならなくなった。

 一方、ロシアは、軍事介入は、ISやヌスラ戦線、過激派組織への攻撃のためだと言っているが、真の目的はアサド政権を存続させることにより同地域におけるロシアの権益を維持・達成することだ。多分、アサド氏が交代しても(シーア派系アラウィ派の)政権は続くと思う。

 ――今後のロシアの出方をどう見るか。

 西側は、ロシアがISとヌスラ戦線を攻撃後、米国に政治解決を持ち掛けるだろうと考えているがそれは間違った認識だ。ロシアは米国を助けるために軍事介入したのではない。軍事介入はISやヌスラ戦線などの過激派を叩(たた)くだけでなく、アサド政権に反対する反体制派グループも攻撃している。ロシアはシリアで自らの影響力を増大させ、将来、シリア内にロシアの軍事基地を持つ可能性がある。ロシアにとってシリアは西側との戦いにとって重要な国家の一つと考えているからだ。

 最近、NATOは地中海で軍事訓練をした。それはNATOが当地域でのロシアの軍事プレゼンス増大を憂えているからだ。

 ロシアの影響力は増大し、ISやヌスラ戦線が縮小するだろう。ロシアはいかなる譲歩もしないだろう。ISとヌスラ戦線間には深い溝があり、そのことも両組織を弱体化させるだろう。

 ――エジプトはなぜ、ロシアを支持しているのか。

 エジプトはまだはっきりとロシアのシリア内戦介入支持を表明したわけではない。ただエジプトは既にシリアと大きな利害関係を持っており、シリアという国家が崩壊することを願っていない。(アラブの春、民主化)革命自体を否定しているのではない。革命はシリアのみならず、チュニジアなど多くの国で起きたのだ。シリアが民主主義国家になることも願っている。しかしエジプトは、シリアがリビアやイエメンのようなシナリオになることを拒否してきた。両国は崩壊したからだ。エジプトは一貫してシリア国家の統一性維持を強調してきた。エジプトとロシアはこの点では同じ見解を持っている。