米のシリア政策が破綻 ロシアがついに軍事介入
ロシアがついにシリア内戦に軍事介入した。ロシアにとっての中東唯一の拠点であるシリアの権益確保のため、反体制勢力への空爆を開始。米国の対シリア政策の破綻が明白となり、ロシアの戦略が成功を収めた場合、中東諸国が雪崩を打って、親ロシア国家になる可能性も出て来ている。(カイロ・鈴木眞吉)
ロシア空軍は9月30日、シリア中部のホムス、ハマ、ラタキア県で、イスラム過激組織「イスラム国(IS)」の通信施設や武器・燃料の倉庫を空爆したと主張した。ところがケリー米国務長官は、ロシアは「イスラム国が活動していない場所を空爆した」との見方を示し、シリアの反体制派連合組織「シリア国民連合」も、「イスラム国を標的にしていない」と主張、子供を含む36人が死亡したと批判した。ラブロフ・ロシア外相は「イスラム国の拠点に対して空爆を実行している」としており、米露双方の主張は全く食い違っている。
プーチン・ロシア大統領は同日、シリアのアサド政権の要請に基づき、上院に軍の海外派遣承認を求め、上院が全会一致で承認していた。ロシア正教会の公共部長ブセボロド・チャップリン師は30日、ロシア軍による空爆を支持し、「テロとの戦いは『聖戦』であり、今日、わが国はテロと戦う、世界中で最も行動力を有した国家だ」と述べた。
米国としては、ロシアの攻撃対象が、ISに限定されるならば、“大歓迎”だが、IS攻撃をかざしながらも、実質はIS以外の反体制派への攻撃を中心とした場合、反体制派への攻撃集中が、結果的にISの勢力の伸長を許す危険性が高まるとともに、アサド政権の退陣を求める米国と真っ向から対立することになることを懸念しているもようだ。
シリア内戦への対応がより複雑化し、混乱が拡大し、難民の流出もさらに増大しかねないことも懸念されている。ロシアが具体的に今後、どのように行動するのか、目を離せない状況が続きそうだ。
一方、オバマ米政権の対シリア政策は、無残な破綻を来してきた。
同政権が目玉とした、反体制派地上部隊5400人目標の育成は、空爆拡大から一年を経ても一向に進まず、修了生の第1陣は、国際テロ組織アルカイダ系反体制派組織「ヌスラ戦線」の攻撃を受けてほぼ壊滅、戦いに参加しているのはわずか4、5人という。修了生の第2陣約70人は、ヌスラ戦線に、有志連合軍から提供された装備の25%も「接収」されるという大失態を演じた。
米紙ワシントン・タイムズによると、国防総省の支援を受けた研究グループで、無党派のシンクタンク、ランド研究所は、最新報告で、「ISの指導者を殺害しても、交代要員がすぐに取って代わるため、組織を壊滅させることはできない」とし、空爆作戦の限界を指摘した。空爆だけに頼った作戦は、IS組織を壊滅させるどころか、彼らに時間を与えて組織の拡大を許した。2万5000人ものテロリストを擁し、いまだ外国からも要員を集め、約20カ国で活動している。元将校と民間アナリストらで構成する非営利組織「戦争研究所(ISW)」は、ISはアフリカと中東の17カ国に支部を設置した、と指摘した。
オバマ大統領は29日、国連でIS対策首脳級会合を主宰したが、「一夜にして状況を変えられるようなものでなく、大変な重労働である現実を直視しなければならない」「打倒のためにはわれわれ全てのたゆまぬ努力が必要だ」として、各国に協力を呼び掛けた。しかしこれは、責任を各国に押し付け、米国の責任逃れに徹した感がある。
一方、プーチン大統領は国連演説でイラクとシリア、イランの4カ国で設置する情報センターに触れ、「世界的な反テロ連合の結成」を訴え、行動も起こした。
もし、ロシアの戦略が功を奏し、IS壊滅と難民問題解決に向かった場合、アラブ諸国は、中東の置かれた現実を把握できずに、観念的な政策に終始するオバマ政権から雪崩を打って離脱し、ロシア陣営に身を寄せる可能性もある。
既に、エジプトやサウジアラビア、ヨルダンをはじめ多くのアラブ諸国(カタールを除く)が、オバマ政権に愛想を尽かし、オバマ氏の交代を首を長くして待ち望んでいる。任期満了ではなく、即時退陣を願っているのだ。
米国が中東での権益を失えば、イスラエルを守ることも困難になりそうだ。