混迷深める米大統領選 共和・民主とも本命候補に暗雲
米大統領選挙は予備選挙プロセス突入を5カ月後に控え、熱を帯びてきている。共和党は不動産王トランプ氏が首位の座を維持し、民主党は本命視されてきたクリントン氏が勢いを失うなど予想外の展開になっており、混戦模様だ。(ワシントン・久保田秀明)
民主 左派の泡沫候補がクリントン氏追撃
共和 強硬派トランプ氏ブッシュ氏に大差
大富豪で不動産王のドナルド・トランプ氏(69)は6月に共和党から2016年大統領選に出馬表明し、メキシコからの不法移民を「強姦犯」と呼ぶなど最初から物議を醸してきた。7月には17人の候補が乱立する共和党指名争いで首位に躍り出た。8月6日の第1回共和党候補者討論会では女性蔑視とも取れる暴言など問題発言を繰り返したにもかかわらず、その後の世論調査でもトランプ氏は首位を維持し、2位との差を一層拡大して独走状態になっている。
テレビ放映された共和党討論会は視聴者2400万人で、党候補指名を争う段階の討論会としては米テレビ史上で最多。これもトランプ効果の影響が大きい。ロイターが8月25日に公表した共和党員に対する全米世論調査によると、トランプ氏は30%で、2位のハッカビー元アーカンソー州知事(10%)に20ポイントもの差を付けている。トランプ氏の支持率は30%前後でほぼ変化していない。
本命と思われていたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(62)は8月中旬以降16%から8%に支持率を下げ、元神経外科医のベン・カーソン氏と同一の3位となっている。ブッシュ氏は移民政策をめぐりトランプ氏と激しい舌戦を繰り広げてきたが、トランプ旋風に歯止めをかけるには程遠い状況だ。トランプ氏は全米世論調査で共和党トップを走っているだけではない。他州に先駆けて党員集会、予備選をそれぞれ実施するアイオワ州、ニューハンプシャー州でも共和党候補中の首位だ。

7月26日、米ルイジアナ州で開いた集会で演説するバーニー・サンダース上院議員=写真左=(UPI)と、7月13日、米ニューヨークで、経済政策について演説するヒラリー・クリントン前国務長官=同右=(EPA=時事)
トランプ旋風は8年ぶりのホワイトハウス奪還を目指す共和党にとって、プラスなのかマイナスなのか、党指導部も決めかねている。共和党が2012年大統領選で敗北を喫した主因は、米国で人口が急増しているヒスパニック系と無党派層を獲得できなかったことだ。ジェブ・ブッシュ氏はヒスパニック系の妻を持ち、無党派層にも抵抗がない共和党穏健派。ブッシュ氏のような穏健派候補を立てて、ヒスパニック系、無党派層など幅広い層の支持を獲得し、2016年秋からの本選挙戦を勝利するというのが共和党の戦略だった。
トランプ氏は内政、外交での強硬発言で、保守強硬派を引き付けているが、ヒスパニック系の同氏への反発は根強い。
ところが、8月19日に、トランプ氏がクリントン氏との支持率の差を過去1カ月間に16ポイントから6ポイントへと大きく詰め、クリントン氏に肉薄しているというCNNの世論調査結果が公表された。トランプ氏が無党派層をも引き付けている可能性が出てきた。共和党の選挙参謀の多くはトランプ氏がいずれ失速すると見ているが、一部にはトランプ旋風はこのまま続くのではないか、との見方も出始めている。
この見方を助長しているのは、民主党最有力候補ヒラリー・クリントン前国務長官(67)の無敵のイメージが崩れ始めている現実だ。CNNの8月19日公表の世論調査では、民主党支持者のクリントン氏支持率は7月から9ポイント減の47%にまで落ち、初めて5割を切った。これには、クリントン氏が国務長官時代に公務に私用メールアドレスを使い外交を私物化していた問題が影響しており、同氏の「誠意」、「信用度」への有権者の疑問が深まっていることを示す。
一方、4月に民主党から出馬し左派の泡沫候補と見られていた社会民主主義者で無所属のバーニー・サンダース上院議員(73)が7月から10ポイント支持率を伸ばし29%で2位になった。さらにここに来て、ジョー・バイデン副大統領(72)が出馬を本格的に検討し始めており、9月中に決定を下す見通しだ。バイデン氏が出馬する場合、民主党反主流派の支持を集めているサンダース氏にあまり影響はなく、民主党主流派のクリントン氏からバイデン氏にかなり支持者が流れる可能性が強い。民主党指名争いも混迷を深めることになろう。