ブラジル連邦警察、石油汚職で元官房長官逮捕
【サンパウロ綾村悟】国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職事件を捜査しているブラジル連邦警察は3日、不正資金を受け取った容疑でジョゼ・ジルセウ元官房長官(69)を逮捕した。ジルセウ容疑者の実弟(コンサルティング会社を経営)も同日逮捕された。ジルセウ容疑者は、別の公的資金流用で既に懲役11年の実刑判決を受けており、刑期の一部を刑務所で過ごした後、恩赦を受けて自宅軟禁状態にあった。
前政権の重鎮、政権与党にも打撃か
一連の汚職事件では、ペトロブラス社の幹部が、下請け企業と優先的に受注契約を結ぶ代わりに受注額を水増しさせ、その差額をリベートとして受け取った後に不正政治資金として政界に流していたことが分かっている。
ペトロブラス社をめぐる汚職は、20億㌦(約2500億円)もの損失が試算されるほどのブラジル史上最大の汚職事件に発展している。ブラジルの治安当局は、ペトロブラスをめぐる一連の収賄事件に対して「カー・ウオッシュ(洗車)」という作戦名を付けて特捜体制を継続、幾度もの集中捜査を通じてペトロブラスの幹部や下請け企業の関係者を逮捕、政権与党の政治家らも捜査対象としてきた。
今回逮捕されたジルセウ元官房長官は、与党労働党(PT)の創成期からの重鎮かつルラ前大統領(労働党)の側近として、党内外に多大な影響力を持っていた人物だ。同容疑者は、一連の汚職事件捜査で逮捕された中で、最も政府の中枢に近い人物でもある。
現地報道によると、捜査当局は、ジルセウ容疑者がペトロブラスに絡む不正資金と収賄の仕組みを作った中心人物の一人だとみており、官房長官として在任中(2003~05)から賄賂を受け取っていた疑いが強い。
また当局は、ジルセウ容疑者が官房長官を退任した後も、自身のコンサルティング事業を通じてペトロブラスの不正資金運用に関わっていたとみており、不正資金を、実弟と共同経営している会社に入れた後、労働党の政治資金や国会工作での買収資金などにしていたとされる。
ジルセウ氏は、ブラジルの軍政時代に、学生として共産党系の反軍政運動に身を投じたが(1960年代)、リーダー格として頭角を現した後に逮捕された。その後、反政府ゲリラによって誘拐された米大使との人質交換で釈放されると70年にはキューバに亡命、キューバでは秘密訓練を受けたとも言われる。その後、75年に顔を整形してブラジルに戻り、79年の恩赦で国籍剥奪の処分が解かれると80年には労働党の結党に参加している。
その後は、政治家としての道を歩み続けており、86年に国会議員に初当選すると92年には汚職疑惑が浮かんだ当時のフェルナンド・コロール大統領の弾劾裁判を主導し、汚職を追及した過去がある。
反軍政の闘士から身を立て政治家として、過去に政権与党の汚職を追及してきたジルセウ元官房長官が、今や汚職容疑で実刑判決を受け、さらなる汚職関与の追及を受けているわけだが、今や捜査当局の追及は、ジルセウ氏の先までも見据えている。
ブラジルの検察当局は先月、ルラ前大統領(69)が、ブラジルの建設大手が中米諸国での公共事業を受注できるように支援し、その見返りを受けた疑いがあるとして、捜査を開始したと発表している。
検察当局は、強いカリスマ性などからいまだ国民に人気が高く、次期大統領選挙での有力候補とまでされているルラ前大統領への捜査を「十分な証拠がある」と判断した上で決定している。それだけに、捜査の進展次第では、政権与党に大きなダメージを与える可能性は十分にある。
現在、ブラジルは深刻な経済危機の真っただ中であり、高い失業率とインフレは国民の生活を直撃している。その上に、ペトロブラスをめぐる巨大汚職事件が続いており、国民の政治不信は頂点に達している。
16日には、ブラジル全土でルセフ大統領の辞職や汚職追放を求める反政府デモが行われる予定となっており、ルセフ政権と与党を含む政治家は、国民の不信に答える必要に迫られようとしている。