油井さん宇宙で日本のISS後の有人活動の議論求めた産経、毎日
◆国際協力を読売強調
油井亀美也宇宙飛行士が、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在をスタートさせた。45歳にして初の宇宙飛行、しかも約5カ月の長期滞在である。航空自衛隊のテストパイロット出身という異色の経歴も重なり、「中年の星」として注目されている。
ISS長期滞在も日本人としては5人目ということで、ニュースはともかく、社説での論評は少ないかと思ったが、本紙を含め5紙が掲載。日付順に並べると、24日付で読売「国際協力で存在感を示したい」、毎日「『有人』の意義を明確に」、26日付で本紙「日本独自の有人飛行目指せ」、産経「有人宇宙活動/ISS後の議論深めたい」、28日付で日経「宇宙の夢にも優先順位を」である。
見出しの通り、素直な気持ちで評価するのは読売。同紙は「宇宙開発で、日本の存在感を示すことを期待したい」として、まず宇宙研究で最大の謎とされる「暗黒物質」の検出を挙げる。正体を突き止めれば、ノーベル賞級の発見と言われるとして、検出装置を油井さんが日本実験棟「きぼう」の船外にロボットアームで取り付けるからである。
その前にも、検出装置は8月に打ち上げられる日本の物資補給船「こうのとり」で運ばれるが、ここでも油井さんはISSのロボットアームを使い、ゆっくりと近づく「こうのとり」を捕まえ、ISSへ接続する。読売は「航空自衛隊のテストパイロットだった油井さんの冷静な判断力が求められる局面は多いだろう」と指摘。毎日も「中年の星」の活躍に期待したい、とエールを送る。
読売が国際協力での存在感を強調するのは、「ISSは、宇宙分野における日本の国際協力の柱」という側面もあるからだ。日米両国は、安倍首相の今春の訪米時に、ISS運用延長の重要性を確認した共同文書をまとめている。その背景にあるのは、宇宙をめぐる国際情勢の変化である。
中国は、軍主導で宇宙開発を進め、地上偵察や測位などに力を注ぐ。衛星破壊の実験を実施し、国際的な批判を浴びたことも――読売はこう記し、「ISSは、中国を牽制(けんせい)する重要拠点とも言えよう」と指摘するが、同感である。
ISSは既に、20年までの運用延長が合意され、米国はさらに24年までの延長を表明、各国に参加継続を呼び掛けている。
この点について、同紙はISS関連予算が年350億~400億円かかっており、日本が参加を継続するにしても、「活用策とコストの圧縮について、さらなる工夫をしないと、国民の理解は得られまい」と危惧を呈する。
◆目標と理解説く毎日
毎日は、読売同様、「問題は費用」とはするものの、ISSでの協調は、油井さんが「ISSの活動を他分野にひろげれば戦争が起こりづらい環境を作り出せる」と語ったように、「外交や安全保障面でメリットがある。ISS関連経費をできるだけ抑制しつつ参加する道を探ることが、日本にとって現実的な対応策ではないか」と、読売よりポジティブな提言を示した。
毎日の提言はもう一つ。見出しになった、「ISS後の有人宇宙開発を見据えた議論を深めたい」である。
欧米やロシア、中国が月や火星への無人・有人探査を計画し、日本の文科省の小委員会も月や火星の無人探査から有人探査へと進むべきだとする報告書をまとめているが、月や火星の有人探査はISS以上に巨額の費用がかかる。「日本が達成すべき目標は何なのか。各国との連携をどう進めるのか。政府は透明性のある議論を重ね、国民の理解を得ていく必要がある」と。
産経もこの種の議論を深めよという点では同じ。ただ、同紙の方は「ISS後の有人宇宙活動は、火星か月面基地が主舞台になる。国際協力に日本が参加するという形が最も現実的だ」と毎日より有人活動に肯定的である。
産経はさらに、「こうのとり」は有人化も視野に入れて開発されたことを指摘し、「日本独自の宇宙船を開発し、より主体的に国際的な宇宙プロジェクトを牽引(けんいん)する道もある」と提案する。本紙が示した「独自の有人飛行」である。
◆一面的な日経の社説
日経の「宇宙の夢にも…」は、「宇宙の探査や利用にはお金に換算できない価値がある」と指摘しながら「優先順位が要る」、つまり日本にとって何が大事なのか見極めて投資する必要がある、ということなのだが、読売や毎日などにあった外交、国際協力、安全保障といった視点は皆無で一面的である。
(床井明男)





