イラン核合意をめぐる波紋
米、対「イスラム国」で連携強化も
今月14日、オーストリアのウィーンで欧米など6カ国とイランとの核協議の最終合意が達成された。2002年にイランの秘密核開発が発覚してから13年にわたる外交交渉の成果である。同合意をめぐっては国際的にも賛否の議論があり、交渉を主導した米国においても国内で評価をめぐり対立が大きい。(ワシントン・久保田秀明)
共和党は承認阻止に全力
イスラエル首相「歴史的過ち」
イラン核協議は3回にわたって期限を延長しながら、マラソン協議の末に今月14日、イランを含む7カ国の外相級全体会合が開かれ、ついに包括的共同行動計画(JCPOA)と呼ばれる最終合意が成立した。
合意は、イランが約10年間にわたり核開発活動を制限することを条件に、国連および欧米諸国が対イラン制裁を段階的に廃止するというものだ。
米国務省が公表した合意内容の概要によると、イランの核開発への制限事項には以下のような内容が含まれる。①ウラン濃縮レベルの20%から3・67%への引き下げ②濃縮ウラン備蓄量の約10㌧から300㌔以下への削減③今後10年以内の遠心分離機1万9000基の6100基への3分の2削減④首都テヘラン南郊のフォルド核施設の研究施設への転換⑤今後8年間の一部研究開発活動制限⑥兵器級プルトニウム生産を封じるための西部アラクの重水炉建設計画の設計変更および今後15年間の重水炉建設禁止⑦使用済み核燃料すべての国外搬出―などとなっている。
かつて米国と北朝鮮の核合意では、プルトニウム生産を封じたが、北朝鮮はもう一つの核兵器開発の手段であるウラン濃縮を密(ひそ)かに継続し、核爆弾を保有するに至った。その教訓に立脚して、イラン合意は、ウラン濃縮、プルトニウム生産という両面を規制する内容になっている。
こうした制限と引き換えに、米国と欧州連合(EU)、国連がイランに課していた制裁措置が解除される。この制裁解除の対象に国連の武器禁輸措置が含まれるかどうかが最後まで議論になった。国連の対イラン武器禁輸措置は5年間、ミサイルをめぐる制裁は8年間、それぞれ維持されることになった。
このイラン核合意は、国際関係に大きな変化を生み出すことが予想される。30年以上にわたり敵対してきた米イラン両国の対話が結実した。今後米イラン関係が急速に改善に向かう見通しが強まっている。核合意を受けて、オバマ大統領は14日、「イランとの合意は米外交によって現実的で意味ある変化をもたせることを示している」と、自らの外交成果を強調した。オバマ大統領は外交面でレガシー(遺産)として後代に誇れる業績を求めているが、イランとの関係改善をレガシーとして残す努力を今後さらに追求することは間違いない。
イスラエルのネタニヤフ首相は「合意は驚くべき歴史的な過ちだ」と述べ、イランの核施設への軍事攻撃も辞さない従来の強硬姿勢を維持することを示唆した。サウジアラビアも米イラン接近には懐疑的見方をしている。中東における米国の伝統的同盟国イスラエルやサウジアラビアとの関係がぎくしゃくする中で、米国はイランと協力関係を推進しようとしている。
核合意前からスンニ派のイスラム過激派組織イスラム国(IS)を包囲するためにシーア派のイランと協力しようとしてきたオバマ政権は今後その動きをさらに強めることが予想される。これは米国の国際関係における大きな賭けだ。いまだに「世界最大のテロ支援国家」(ジェームズ・クラッパー米国家情報長官)とされ、イラク、シリア、イエメンへの関与を深めるイランと手を結ぶことがどういう結果をもたらすのか、まだ誰にも分からない。
米国内では共和党が主導する議会を中心に、核合意がイランの核開発能力を縮小するとはいえ温存し、同時に制裁解除で巨額の資金をイランに与える結果になることを理由に、合意への反対の声が広がっている。
共和党のジョン・ベイナー下院議長は、「今回の合意は、危険なイランに制裁解除で数十億㌦を得させるとともに核開発の継続も許容するもので受け入れられない」と明言した。イラン核合意が実行されるには米議会の承認を得る必要があるが、共和党指導部は合意阻止に全力を尽くすとしている。オバマ大統領は拒否権を行使しても合意を実行に移す構えで、今後、ホワイトハウスと議会の対決がエスカーレートしそうだ。さらにジェブ・ブッシュ氏ほか共和党大統領候補も相次いで反対を表明しており、2016年大統領選でもイラン問題は主要争点になることは間違いない。