オリンパス、石川裁判 内視鏡医療事故にメスを

退職勧奨に無効判決

 無配株なのに株価が3000円台(4月下旬現在)―。株式市場に精通している投資家でも「なんだこれは!」と、驚いているに違いない。

 大手鉄鋼メーカーなどでは、それぞれ社員が汗水垂らし懸命に働いても、1株当たりの配当は2~3円。株価も200~300円台に過ぎない。

 無配でも3000円台の株価を付けている会社。それはカメラや内視鏡などのメーカーとして知られるオリンパスである。

 そのオリンパスが、ここ数年不祥事が続き社内が大きく揺れている。

 さる4月23日(木)、東京地裁八二三号法廷で、同社社員石川善久・原告の裁判が行われた。裁判は3年前の2012年秋、石川氏が会社側から退職勧奨されたことに始まる。

 当時彼は同社の開発四部に在籍。生物用顕微鏡の開発チームで、顕微鏡の設計を行うなど忙しい日々を送っていた。そこに突然の退職勧奨とあって彼は狼狽(ろうばい)し、しかも仕事が忙しかったこともあり、退職勧奨を断った。

 しかし会社側の退職勧奨は執拗(しつよう)で、それは5回にも及んだという。翌年には早期退職制度の説明をうけ、「あなたには仕事がない」との脅しともいえる忠告を受けた。

 当時、彼はまだ50歳で、取得した特許は九つ、日米欧でデザイン賞にも輝いた商品開発にも携わり、技術者としては実績を持ち、会社への貢献度も高い。それがなぜ退職勧奨なのか彼にもわからない。

 ただ当時のオリンパスは粉飾決算の発覚から、経営危機に見舞われていたことは確かで、経営陣は危機を人減らし策で切り抜けようと考え、そしてその候補の一人に石川氏も選ばれたということは考えられる。

 しかし石川氏は会社の政策には従わなかった。その結果、翌2013年1月、キャリアを全く無視されたポスト「品質環境推進部・品質環境教育グループ品質教育チーム」という、長い肩書をもった部署へ異動となった。

 明らかにそれは懲罰人事で、しかもそこには同じ懲罰人事で左遷された濱田正晴氏が前任者として異動していた。石川氏はその部下という肩書だった。

 そこで石川氏は会社と上司小暮俊雄コーポレートサービス本部長に対し「キャリアを無視した不当行為である」として東京地裁に提訴した。

 前述した4月23日(木)に行われた裁判もそれで、今回の審議は石川氏側に有利に進み、多分、次の裁判では会社側の退職勧奨は無効とされ、石川氏勝利の裁定が下されることになろう。もっと分かりやすく言えば、元の職場への復帰、もしくはそれに代わる新しい職場への配転となろう。

社員との信頼が品質に

 同社は光学機器メーカーのなかでも、内視鏡という優れた技術を所有、それは世界でも評価が高くシェアは75%にも及ぶ。ところが今それが大きな危機にさらされている。

 米国ではその内視鏡を使った手術で死人が生まれ、損害賠償問題に発展するのではないかと言われているし、また死者を出した群馬大学医学部、千葉県がんセンターの手術でも、同社内視鏡との因果関係が噂されている。

 消化器系の手術にはなくてはならないのがオリンパスの内視鏡。もし不祥事がその内視鏡の不備にあるとしたら、同社に多くの責任が課せられる可能性もある。

 同社は無配でも3000円台の株価を付ける、優れた商品とブランドを持つ日本の誇るべき会社である。もっともっと品質と社員との信頼感を磨き、世界に誇れる会社になって貰(もら)いたいと願うのは私だけだろうか。