「同盟国軽視」顕著なオバマ米政権
合意急ぐイラン核交渉、パイプライン建設拒否
オバマ米政権の同盟国を軽視する外交姿勢が顕著になっている。オバマ大統領は先月、カナダから米国に原油を運ぶパイプライン「キーストーンXL」の建設を承認する法案に拒否権を行使した。また、イラン核開発問題では、イスラエルの強い反発を無視して交渉妥結を急いでいる。米国との同盟関係を安全保障の基軸とする日本にとって、オバマ政権の同盟軽視傾向は大きな不安材料だ。(ワシントン・早川俊行)
苛立つイスラエル、サウジ、カナダ 日本にとっても不安材料
主要6カ国とイランの核協議が大詰めを迎える中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は今月3日、米野党・共和党のジョン・ベイナー下院議長の招請で、米議会上下両院合同会議で演説。オバマ政権が目指す合意について、「イランの核兵器開発を阻止できない」と真っ向から批判した。
これに対し、オバマ大統領はネタニヤフ氏の演説を「いかなる実現可能な代案も提示していない」と反論。ホワイトハウスは議会演説が頭越しに行われた不快感もあり、大統領を含め政府要人とネタニヤフ氏の会談を設定しなかったほか、上院議長の立場にあるジョー・バイデン副大統領も外遊を理由に演説出席を見送った。
オバマ、ネタニヤフ両氏の関係はもともと良好ではなかったが、今回の一件で同盟関係にある両国の亀裂は危険なレベルにまで深まった。共和党のオリン・ハッチ上院議長代行はこの状況について、「大統領はイスラエルのカウンターパートと生産的な仕事関係を維持するどころか、多くのレベルで緊密な同盟関係を損なっている」と厳しく批判した。
任期が残り2年を切り、イラン核問題で外交成果を残したいオバマ氏の前のめり姿勢は明白。イスラエルだけでなく、サウジアラビアなども同盟国の意向に配慮せず、敵対するイランに接近するオバマ政権に不満を募らせている。
「米国の友好国であるより、敵対国であるほうがいい。米国は敵対国により敬意を払うからだ」――。共和党のリンゼー・グラム上院議員によると、今年1月にサウジアラビア、カタール、イスラエルを訪問した際、外交当局者からこう言われたという。
一方、キーストーン建設拒否は、国境を接する同盟国カナダを失望させている。
キーストーンは、カナダのオイルサンドから抽出した原油を米テキサス州の製油施設に運ぶ、北米を縦断するパイプライン。完成すれば、日量83万バレルを輸送することが可能になる。これは南米ベネズエラからの2013年の輸入量(日量約80万バレル)を上回る規模だ。キーストーン建設は、ベネズエラのような反米国や不安定な中東へのエネルギー依存低下に役立つが、オバマ氏は環境への悪影響を理由に拒否権を行使した。
これに対し、ジョン・ボルトン元米国連大使は、ワシントン・タイムズ紙への寄稿で「キーストーン建設拒否は間違った国内政策であるだけでなく、国際的にも米国に否定的影響を及ぼす」と指摘。「オバマ氏のイデオロギーに基づく非協力的態度はカナダとの関係を傷付けている」と批判した。
フランスで今年1月、17人が犠牲となる連続テロ事件が発生した後、パリでキャメロン英首相やドイツのメルケル首相ら各国首脳が参加する大規模な行進が行われたが、米国からは正副大統領、国務長官はおろか、閣僚さえ出席しなかった。欧州で広がるテロの脅威に対するオバマ政権の関心の低さを印象付けた。
日本と米国の間には深刻な亀裂を招く懸案はないため、オバマ政権の同盟軽視傾向は今のところ、日米関係では表面化していない。だが、保守的な安倍晋三首相は、リベラルなオバマ政権内ではあまり好意的に受け止められていない。集団的自衛権行使容認に向けた安全保障法制の整備など、近年ではどの首相よりも積極的に日米同盟強化に取り組んでいるにもかかわらずだ。こうした貢献を評価するより、冷却化した中韓両国との関係を否定的に見る向きが強い。
共和党のテッド・クルーズ上院議員は「オバマ外交では、国際社会のすべてのメンバーが平等だ」と指摘する。つまり、オバマ政権にとって同盟関係は特別な関係ではない、ということだ。日米関係は現在、安定しているものの、決して油断することはできない。






